そこに物語があれば

秋田在住、作家志望兼駆け出しエロゲシナリオライターの雑記

エロゲレビュー「はるのあしおと」

資格を持っていながらも、学生時代から住んでいた都会では教員になれず、その上失恋してしまった主人公・樹
彼がそんな自分の境遇、そして煮え切らない自分自身に対して採った行動は、「故郷の街に帰る」という「逃避」とも言えるものでした
自然豊かな田舎町・芽吹野町
樹はその故郷でくすぶりつづけます
しかし、ほんの小さなきっかけから始まる新しい日々と、その時の中で出逢う、自分とは違った生き方をする人々
今までの自分と新しい自分
それは希望に満ちた変化というよりも新たな不安を沢山抱え込むことかもしれない
彼はまだ、そう考えます
そう、この時はまだ
誰もがいつも心に持ち続ける、漠然とした不安や自分への焦り、そして前へ進む怖さ
その渦の真っ只中にいる主人公と、彼を取り巻く人々、そしてそれらを包み込む自然という要素のみで、本作は静かに、けれどもしっかりと「人間」を描き出します
――未来はちっぽけな勇気で拓かれる
というわけで はるのあしおと
凄く好きな作品です
脅威のクオリティを誇るOP
非常に良く出来た演出に綺麗なCG
しかし、それらに彩られた中身は「主人公とヒロインの成長物語」というありふれた物
だが、そのありふれた物語をひたすらに丁寧に書いているのが本作である
正直、演出等のクオリティの割には地味な物語です
秒速5センチメートル系とも言える真剣な恋愛劇は人を選ぶかもしれません
ある意味では秒速5cmのその後の様な話です
主人公は失恋をしているわけですが、別に何かドラマがあった末の失恋ではありません
それは何も言えずに終わった恋
相手への想いが強すぎたが故に何も言えなかった主人公
本作はそんな主人公の「人間としての」成長物語です
時には過去を振り切り
時には過去と向き合う
これは主人公に共感出来るか否かが肝な作品だと思います
良くも悪くも受け手の立場によって評価の変わる話です
漠然とした不安が自分の中にいる
意味もなく蠢いている
なのに、その正体が何なのか分からない
そんな行き場の無い想いを抱え、社会の現実に突き当たって悩む主人公の青臭さに共感できる人にとって本作は堪らない筈
共感できる人には、この物語は「痛い」
「鬱」ではなく、精神的に「痛い」と思える作品です
そして紆余曲折を経て自分の弱さを認め、大切な人を守るため迷い、愚直な道を選ぶ主人公の姿はプレイヤー自身を奮い立たせてくれるでしょう