そこに物語があれば

秋田在住、作家志望兼駆け出しエロゲシナリオライターの雑記

エロゲレビュー「SWAN SONG」

その夜
それまで通り過ぎるだけの他人だったぼくたちは大きな運命の煮えたぎる一つの釜の中に投げ込まれてしまった
12月24日
山奥の都市
大地が、突如として揺れ、そして平和な世界は一変する
大地は裂け、建物は崩れ落ち、あちこちから悲鳴があがった
ごく平穏な住宅街の光景は、瞬時にして地獄の景色となる
主人公・尼子司は、混乱の中で奇跡的に一命を拾い廃墟のなかを彷徨ううちに自閉症の少女・あろえと出会う
そして彼女と共に避難先を求めて歩きはじめる内に古ぼけた教会を見つける
そこへ司と同じ様に地震で家を失った若者達が、やはり同じ様にして、集まってくる
そうして、雪の降る教会で、彼らは出会った――
というわけで、瀬戸口廉也の傑作 SWAN SONG
本作は、災害サスペンスとして評価する人もいれば
極限状況下の人間ドラマとしてだったり
哲学的な部分に感激する人もいたりと、人によって評価する部分がまちまち
ちなみに俺は、哲学的テーマに大層感銘を受けた人間だ
「その時、人は絶望に試される」とキャッチコピーにあるように、本作の主題は「絶望」
これは、不慮の出来事により、今まで、絶対的な不変の物と信じていた既存の価値観の崩壊という絶望的な状況に直面した者達が、それぞれ絶望と向き合う群像劇である
絶望に打ちひしがれる者
絶望から立ち上がろうとする者
昔から絶望と闘い続けてきた者
とうの昔に絶望に屈してしまった者
希望も絶望も抱かず日々を気ままに生きてきた者
そんな様々な者達がそれぞれの結論に行き着くまでを描いている
また、本作は絶望の物語であると同時に希望の物語でもある
例え、どれだけ惨めであろうとも絶望に屈しさえしなければ、そこには確かに希望が存在するのだという事を本作は教えてくれる
ある漫画の台詞で言う所の
「諦めたら、そこで試合終了ですよ」
という奴だ
どんな絶望的な状況にあろうとも諦めなければ希望はある
そう、本作は、絶望の中に希望を見いだす物語なのだ
作中で主人公は言う
「醜くても 愚かでも
誰だって人間は素晴らしいです
幸福じゃなくっても、間違いだらけだとしても
人の一生は素晴らしいです」
悲劇的な場面も多く鬱ゲーと評される事も少なくない本作
だが、物語の最期に主人公が胸に抱く想いは一片の曇りも無い希望に他ならない
これほど前向きな物語を安易に鬱ゲーと片付けるのは些か同意しかねる俺でした