そこに物語があれば

秋田在住、作家志望兼駆け出しエロゲシナリオライターの雑記

エロゲレビュー「竜†恋[Dra+KoI]」

むかし むかし
まだこの世が自らの尾を噛む竜のように完全だった頃
何もかもが満ち足りてた頃
誰もかれもがひとりぼっちで完成していた頃
とあるひとりの竜が恋に狂った
竜の瞳に写ったちいさなちいさな
取るに足らない
塵にも等しい
ちっぽけな命
そんなちっぽけな、そのヒトを一目見たその瞬間
竜は、恋に、落ちた
高鳴る心臓をおさえられず
眠れぬ幾億の夜をすごし
身もだえ、くるしみ、涙に暮れて
恋に蝕まれ、孤独に蝕まれ
まるで猛毒がゆっくり、ゆっくり、全身にまわってくように
――竜は、狂った
――恋に、狂った
というわけで 竜†恋[Dra+KoI]
本作は、ニトロプラスアミューズメントディスク サバト鍋に収録された短編作品である
短編なだけあって作品としてのボリュームは非常に小さく、二時間もあればクリア出来てしまう程だ
だが、短編と侮るなかれ
本作は物語としてのスケールは決して小さくはない
むしろクリア後は、EDに流れる いとうかなこさんの名曲『とある竜の恋の歌』の壮大さと相まって、まるで大作をプレイし終えたような気分にさえなってしまう
「大きくて小さい」という矛盾した表現がしっくりくる作品だと言える
そんな本作が描いているのは、最初から最後までラブストーリー
それは、とある一匹の竜の歪なんだけど、ひたすら真っ直ぐな求愛行動
「さあ、恋人よ。
 呪いの様に生きて、
 祝いの様に死のう」
本作を評価する上で特筆したいのは、独特の構成と台詞回しの秀逸さだ
劇中劇と言い切る程はっきりとしたものではないが、目に見えない大きな意志によって結末が定められた予定調和な物語を登場人物達がそれぞれに与えられた役を精一杯演じながら紡ぐという構成や、芝居掛かった詩的な台詞回しは、星空めておの傑作「Forest」を彷彿とさせる
Forestが童話をモチーフにしていたのに対して、こちらがネタとして用いたのはドラゴン伝承
「物語ってことさ。
 竜はね。語り、語られる存在なのだ」
人と竜
殺し合う事が定められた両者が織りなす短いながらも濃密なラブストーリー
それはまさに「呪いのような恋」と言える
さて、ここまで書いた文からすると、本作は凄いシリアスな悲恋を描いた物語の様に思えてしまうが、実は全く違う
勿論シリアスな部分はとことんシリアスなのだが、全体的な雰囲気としては、キャッチコピーで謳われているようにアッパー系だ
このバランスもまた絶妙と言える