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そこに物語があれば

秋田在住、作家志望兼駆け出しエロゲシナリオライターの雑記

創作、小説、掌編「兄と呼べた日」

「800字でつづる掌篇小説の文学賞
なるものに先日、作品を投稿いたしましたところ、嬉しいことに二月期の佳作を頂いてしまいました。
せっかくなので作品を載せてみます。
我ながら内容が地味なのは自覚してます。
元々は、二年前ぐらい前に書いたものに手直しを加えただけなんですよね。
『兄と呼べた日』
母が再婚した時、父方の連れ子としてやってきたのが兄でした。
「お兄ちゃん」という存在に昔から憧れがあった私は、兄ができたことがとても嬉しかったのですが、突然現れたその人を気はずかしさからか「お兄ちゃん」と呼ぶことがなかなかできませんでした。
兄は気さくな人でしたが、内気で引っ込み思案だった私は距離を縮めるきっかけが掴めず、気をつかわせてばかりだったのです。
私が戸惑いの気持ちからよそよそしい態度をとってしまうたびにそれを笑って許してくれる兄。
だけど、その笑顔は少し寂しげでした。
そんなある日、用事があって兄の部屋を訪れた私はその場所には不似合いな、あるものを見つけました。
それは手作りと思われる可愛いらしいテディベア。
気になった私はその事を兄に尋ねました。
「恥ずかしいものを見られちゃったな」
兄はそう照れながら、あのテディベアが何であるかついて話してくれました。
あれは兄の実母が作ったものであること。そして形見でもあることを。
兄は軽い口調で話していましたが、私は何か悪い事を聞いてしまったような申し訳ない気持ちにならずにはいられませんでした。
すると、その時、突然兄が
「はい、オレからのプレゼント」
そう言って私にそのテディベアを差し出したのです。
きっと、バツの悪そうな表情を浮かべていた私に気を使ってくれたのでしょう。
「俺みたいなむさい野郎の部屋に置いとくよりも女の子の部屋に置いてもらった方がきっとお袋も喜ぶさ」
兄はそう言いましたが、そんな大切な物を貰うわけにはいきません。
私は断ったのですが、結局「兄貴の言うことは聞くもんだ」と押しきられてしまいました。
でも、兄からのプレゼントが本当は嬉しかった私はテディベアを抱きながら小さく呟きました。
「ありがとう……お兄ちゃん」と。
この日、私は初めて、その人のことを「お兄ちゃん」と呼べたのです。