創作、小説、掌編「じゃじゃ馬」
800文字文学賞の六月期投稿作品です。
第一回の800文字文学賞が六月いっぱいで終了とのことでして、僕の大好きな甘酸っぱい系のラブストーリーで行くか、何かしらの変化球で行くか悩んだ結果、変化球のほうを選択してみました。
『じゃじゃ馬』
さて、お目覚めかな。
とりあえずは初めまして、といったところか。
まあ、どういうことかというとだね。キミは買われたんだよ、僕に。
いやぁ、安い買い物じゃあなかったよ。これでも普通の勤め人でね、キミを買ったせいで貯金はすべてパーさ。
でも、キミみたいなのを所有するのがずっと夢でね、後悔はしちゃいないよ。
そういうわけで、さっそくだけどキミを堪能させてもらおうか。大枚をはたいただけの見返りはしっかりいただかないとね。
……へぇ、おとなしそうにみえてずいぶんとイイ声で啼くじゃないか。こいつは楽しみだ。
それじゃ、外に行こうか。僕のモノになったキミの姿を他の人にも見せてあげないと。
いやぁ、緊張するねぇ。まぁ、キミと一緒に外に出るのは初めてだから当然か。
おっと、暴れたって無駄だよ。これでも腕には自信があってね。キミを押さえつけるぐらいは造作もないのさ。
――っぅ、おいおい、暴れるなと言ってるだろ。こんな往来でそんなに注目を浴びたいのかい?
ふぅ……、オーケイ、ならばいいさ、好きなだけ暴れてくれ。人の目なんてかまうもんか。
ほら、どうだ? こう、押さえつけられたらさすがのキミも暴れられないだろう。
ハハハ、すごい悲鳴だね。道行く人がみんな、僕とキミを見てるよ。まったく、コイツはとんだ羞恥プレイだ。でも、警察にだけは気をつけないとね。もし僕が捕まったらキミとはしばし離ればなれになってしまう。それだけはごめんさ。
それにしても、キミはまだ暴れるのかい。やれやれ、本当にたいしたじゃじゃ馬だな。
しかたない、それなら場所を変えよう。街から離れて山のほうへ行こうじゃないか。そこなら好きなだけ無茶をできる。
言っておくけど容赦はしないよ。僕は絶対にキミをモノにしてみせる。
じゃあ、行こうか…………クソッ! なんてこったい! もう、ガス欠だって!?
おいおい、大食いだとは聞いていたけどこれほどとは。ほんと手のかかるマシンだよ、キミは。
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