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そこに物語があれば

秋田在住、作家志望兼駆け出しエロゲシナリオライターの雑記

レビュー、アニメ、マンガ「what a wonderful world〜マイマイ新子&ミミア姫〜」

 今回ここに書くことは、本当ならば前回の妄文の中にさりげなく織り込むつもりだったのですが、やっぱりこれは、4E閣下でもユンカースでもなく自分自身の言葉で語らなくてはいけないと思い、改めて筆を執っている次第です。
 先日僕は、あるネット上の声を耳にしたのをきっかけに、一本のアニメ映画を観ました。
それは、『マイマイ新子と千年の魔法』という一作なのですが、これがもう色々と素晴らしかったわけです。
 すでに知ってて、「今さら……」と思う人もいれば、聞いたこともない人もいるでしょうが、世間的には完全にマイナーな部類に入る作品でしょう。
 ストーリーをざっと説明しますと、昭和30年代の山口県防府市を舞台に、少し空想癖のある少女・新子の身の回りに起こる悲喜こもごもを描いた特別じゃない物語、とでも言いましょうか。
 決して派手な物語ではありません。これといった大きな盛り上がりや、それに伴うカタルシスはほとんどなく、特別という言葉からは、もっともかけ離れたタイプの地に足のついた物語です。(これは、そもそもの原作が作者の実体験に基づいた小説というのもあるのでしょう)
 僕ははじめ、舞台が昭和30年代というのを聞いて、「なんだ、また、昔は良かった系の作品か……」と、斜に構えていたのですが、そんなことはありませんでした。いたずらにノスタルジックを駆り立てる類の作品では決してないです。
 それぞれ形や在りかた、感じかたは違うかもしれませんが、いつの時代にだって苦しみはあります。悲しみもあります。人が必ず救われる保証なんてどこにもありはしません。ですが、それと同じように、いつの時代にだって楽しみはあります。喜びはあります。保証はなくとも救われること自体は必ずあるはずです。
 この作品は人を描いています。時代なんか関係ありません。その時その瞬間を精一杯もがき苦しみながら生き抜く人の姿を書いています。
 この残酷で素晴らしい作品に、僕は大好きなとある小説の一文を捧げましょう。
「世界は残酷でおそろしいものかもしれないけれど、とても美しい」
 大切なのは、美しいと思う心。美しいものを求める意志。綺麗事だけではやっていけない世界で、もがきながらも前に進もうとする力。
 ここは天国じゃないんだ。かといって地獄でもない。いいヤツばかりじゃないけど、わるいヤツばかりでもない。
 前に進むしかないんです。列車は終点まで走りつづけるのですから。
 物語の終わりには、finと表示されるのが常ですが、この作品にはそれがふさわしくありません。なぜなら、たとえこの作品が終幕を向かえようとも、彼女自身の物語は何も終わってなどいないからです。
 物語は続く。人が生き続ける限り物語は終わらない。
 美しさと醜さ。優しさと報われなさ。そんな相反するようで絶対に切り離せない二つのもの。それをどちらかに偏ることなく真正面から描いた本作は、近年のアニメ作品に、おける隠れた傑作でしょう。

http://www.youtube.com/watch?v=e2jsoJ3nUo4&feature=related

マイマイ新子と千年の魔法 [DVD]

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 さて、そんなこんなで褒め称えたこの作品なんですが、興業面においてはあまりに不調で、一時はDVD化さえ危ぶまれたそうです。
 あるブロガーさんが言っておられてたのですが、もしこの作品にジブリの看板だけでも付いていたとしたら、おそらく興行的には数十億クラスの大成功しただろうとのことで。これには僕も同感でして、ストーリーもさることながら、作画や背景のクオリティも非常に高く、ジブリなんかにもそうは引けを取らないと思うんですよ。一見すると、ファンタジー要素を廃したトトロのように見えなくもないですし……。
 まぁ、とはいえ、子供向けというには、ちょいとけれん味がきついんですがね。
 はっきり言うと大人向けの作品です。子供の目線から物語が綴られるだけで、基本的には対象年齢高めです。
 なんたって、この作品の監督・脚本を務めた片渕須直さんという方は、アニメ版BLACK LAGOONの監督・脚本を務め方ですし。
 この人の経歴をざっと眺めていって、ああ、なるほど、と思ったのが、この人は、アースコンバット4のムービー部分の監督・脚本をやってるんですよね。
 あのゲームをプレイした人にはわかると思うんですが、あのムービー部分って、驚くぐらいに本編との繋がりが希薄というか、ノリが作品のコンセプトと違うじゃないですか。それに、あれもまた子供の目を通して語られた物語でしたし。その辺がなんとなく、この『マイマイ新子と千年の魔法』にも通ずる感じがしましたね。


 続けてもう一作。こちらは漫画です。
ミミア姫/田中ユタカ

 こちらはどうしてか説明に困る一作でして、特別分かり難い作品というわけではないのですが、この作品から得た感動を上手く言葉に出来なかったりします。
ストーリーはですね、かいつまんで話しますと、
”むかしむかし、とおいみらい。こころのきよらかな天使たちがくらす天国でのおはなしです。ある、さむいさむいふゆのひのあけがた、ひとりのおんなのこがうまれました。なまえはミミア。てんしのはねをもたない、カミサマの姿をしたおんなのこです”
 といった感じの童話のような物語です。
 ただひたすらに愛と優しさに満ちた物語とでも言いましょうか。
 これについては、上手く言葉に出来ないと言うよりも、安っぽい月並みな言葉になんかしたくないといったほうが適切かもしれません。
 作者をして、「戦車で踏みつぶされても殺されないもの」、「どんなに殺されても消えないもの」を描きたかったと言うほどの力作です。
 僕なんかが多くを語ると、この作品の魅力をむしろ損なってしまいそうです。なので、作中の言葉を一つだけ。
 物語の幕間で、臨月を向かえた妊婦がお腹の中の胎児に絵本を読み聞かせるシーンがあるのですが、そこでこの妊婦が居合わせた看護婦に、「自分がもし、生まれてくるこの子を愛せなかったらどうしよう」と、悩みを吐露します。そこで看護婦はこう述べるのです。
「人を愛するのは困難なことです。簡単じゃありません。たとえ自分の子供であっても、……いえ、自分の子供だからこそ、愛することは困難です……。全部作り話ですから。親が子供を無条件に愛することができるというのはまったくの作り話です。生命にかけがえのない価値があるとか、世界は生まれてくる者を望み、祝福するというのは作り話ですから。絵本の中のおはなしですから。現実の人間の歴史では、愛されもせず望まれもせず生まれてくる人がほとんどです。そして、誰も愛することなく一生を終えて死んでいくんです……。それが普通です。だ・か・ら――……」
この「だ・か・ら――……」の続きが気になった人は実際にこの作品を手にとって読んでみてください。
 誰にとっても素晴らしい作品になり得るとは保証しません。ですが、この作品からあふれ出した何かが頭ではなく胸に響いた人間がここに一人います。