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そこに物語があれば

秋田在住、作家志望兼駆け出しエロゲシナリオライターの雑記

創作練習小咄、コラム、出崎監督「リスペクトしてる人の命日を間違えるってすごくかっこ悪いよね。の巻」

 今日も天気が良い一日だった。五月初旬にしては例年よりやや気温が高く、昼も過ぎた頃には街行く人のなかには薄着姿も目立っていた。
「おう、兄上様のお帰りやでえ」
 僕が気晴らしの散歩を終え自宅に帰宅すると、妹達が何やらパンフレットのようなものを二人して楽しげに眺めている。なんの気なしに後ろから覗き込むと、修学旅行のしおりという文字が目に入った。
 なるほど、中学生にとってはもうそんな時期か。
 僕は自分の青春時代を思い出し、少しだけノスタルジックな気持ちになりながら、A美とB子に修学旅行の行き先を訊ねてみる。
「修学旅行の目的地? えっとねえ、関西方面かな大阪とかあの辺。っていうかお兄ちゃんってばいきなり後ろから話しかけないでよ。びっくりしたじゃない」
「兄……のぞき見はいくない」
 僕は「すまん」と頭をかきながら、もっと詳細な行き先について聞いてみる。
「とりあえず大阪城でしょ。後は……」
「USJなんかにもやっぱり行くのか?」
「うん。それと他には……あっ、宝塚劇場にも行くみたい」
「……ベルばら超観たい……」
「Bちゃんああいうの好きだもんね。まあ、わたしも好きだけど」
 オスカルがどうとかアンドレがどうとか会話に華を咲かせ初めた妹たちをよそに、ベルばらという作品名は、僕にとある一人のアニメ監督の名前を思い起こさせた。
 ……そういえば、そろそろ一周忌になるのだな。
 ふとそのことを思いだし、携帯電話のネット機能で軽く調べてみる。そして僕は、
「やべえ、出崎統監督の命日普通に過ぎてんじゃん!」
 目に入った二〇一一年四月一七日没という文字に、まぬけな叫び声を上げた。
「な、何よお兄ちゃんいきなり叫んで。ってか出崎監督って誰?」
「……わたし的には劇場版ハム太郎の人」
「待て、B子よ。出崎統監督と言えばあしたのジョー2だ。まあ、ベルばらでもOVAブラックジャックでもガンバの冒険etcでもいいんだけど」
 僕はわりと真剣な声色でB子に指摘する。
「あっ、わたし知ってる。あしたのジョーってすこし前に実写でやってたやつでしょ。伊勢谷くんが最後に死んじゃうやつ」
「伊勢谷というか力石な。というか、その辺の話までは有名で知ってる人が多いけど、その後の話とかA美は知らないだろ」
「うーん、そこまではさすがに……」
「……確か、真っ白に燃え尽きる……」
「おっ、正解だB子。だけど、そこに至るまでの経緯は?」
「そこまではわからない……」
 二人とも大体同じ答えの妹たち。俺は携帯電話を操作して、ウェブサイトから一枚の画像を開いた。
「こいつを知ってるか?」
「誰? この髭のおじさん」
「コイツはな、ホセだ」
「わたし知らない」
「……わたしは聞いたことはある」
 ホセ・メンドーサキングオブキングスの異名を持つあしたのジョーという作品のなかでも最強の対戦相手。
あしたのジョー2という作品はな、力石亡き後、ジョーがホセと戦うまでを描いた濃密な人間ドラマだ」
 (余談だが筆者はここに来て焦りを覚えていた、大体一五〇〇字ぐらいでまとめたいのにもうすでに一〇〇〇文字を超えている。だからなるべく簡潔にまとめなくては)
「ええい、一言で云う! ピックアップするなら、人間模様と光の演出がいま観てもやべえ」
「光の演出?」
 文字数の関係でA美の疑問を素通りして、僕はそのまままくし立てる。
「人間模様の中でも特にすげえのがジョーとホセの対比だ。二人とも強さを追い求めてるのは一緒なんだが、歩む道がまったく違うんだな。ジョーには絶えず孤独が付きまとう。これは原作の漫画版も同じではあるんだが、周りから人が離れていったりと孤独の表し方がわかりやすい原作に対して、アニメ版2のジョーは最後まで良い仲間達に囲まれたままだ」
「お兄ちゃんに無視された……。っていうか、だったら孤独じゃないじゃん」
「違う。仲間に囲まれながらの孤独だ。他者との距離は近いのに、どうあっても魂の本質的な部分で不理解が付きまとう。本人にしか認識出来ない周囲との壁。これこそが本当の孤独だと僕は思う」
 あしたのジョー2の作中でやけに印象に残るのが、ジョーの目線の方向だ。人の輪の中にあっても、どこか遠くを見ていたり、視線を下に傾けているシーンがやけに多い。あれもまた恐ろしく計算された演出である。
「……ねえねえ、兄。それで、ホセのほうはどうなの」
 気になる風なB子が、僕の袖を引く。
「ホセか。ホセはな……、光だ。そして対照的にジョーが闇となる」
「ふーん、光っていうとどういう感じなの?」
「孤独とは対局にいるってことさ。ジョーと同じく強さを追求していながらも、ホセは国を愛し家族を愛している。そこに陰りの表情はない」
「……ホセはリア充?」
「今風に云えばまさしくそうだ。最近のマンガに例えるなら、性格が超オープン型になった、三月のライオンの桐山くんだ」
「うわあ、そりゃあ確かにリア充だわ」
「……じゃあジョーは三月のライオンで言うと?」
ジョーはな……。うーん三月のライオンだとちょうどいいのが思い浮かばないから、ハチクロのはぐちゃんにしておこう。あの子を強烈にストイックにした感じかな」
「ええーっ! はぐちゃんはあんな変な髪型じゃないよ」
「いや、誰も髪の話はしてないだろ。というか、ジョーだってはぐちゃんみたいなちんちくりんじゃねえよ」
 お気に入りのキャラをちんちくりんと言われたのが気に障ったのか、A美は不愉快そうに唇を尖らせていた。
 でも、強烈にストイックなはぐちゃんというのは案外悪くない例えだと思う。
 共通するのは、ありふれた幸せよりも、なにかもっと尊いあやふやなもののために自らのすべてを投げ打つという覚悟の定まった生き方。
『Joe Yabuki, where he came from, and where he is going to go?』
 ホセが初めてジョーに会った時に口にした台詞。
 直訳で、ジョー・ ヤブキ、彼はいったいどこから来、そしてどこへ行くつもりなのか?
 当然ながら、国を愛し家族を愛するホセにはジョーの生き方、価値観に共感することができない。
 お互いに強さを求めていながらも、彼らの生き方は絶対に相容れることがない。
「でも、聞いた感じだと、わたしはホセの生き方のほうが好きだな。やっぱり家族のために戦うのって凄い素敵だもん」
 A美の言うことはもっともだと思う。ジョーの価値観がどこか歪なのは確かだ。そして、かく言うジョー自身も自らの歪さを自覚している。
 だが、人間が生理的欲求に逆らえないように、ジョーも自分の生き方を変えることは出来なかった。
「まあな、ジョーもホセみたく生きられればよかったんだろうが……。それは無理だったのさ、矢吹ジョーが矢吹ジョーである限り無理だったんだよ」
 よく勘違いをされるが、ジョーはストイックであっても何も捨ててはいない。だって、ジョーは闘うこと以外に価値があるものなんか持っていなかったのだから。
「……ジョーは社会性のないダメ人間」
「ははは、B子、それは言うとおりだな。あんな生き方は真似しちゃいけない」
 そう笑いながらも、僕は胸の奥でジョーの生き方への羨望を捨てることが出来ない。これ以上ないほど豊かなホセではなく、何も持っていないジョーが、だ。
 そんな僕の胸の内を見透かしたようにB子は、
「……兄よ。求道と不幸はイコールで結ばれてるわけじゃないから注意……」
「それはわかってるよ。強さを追い求めるにしても、ホセのような生き方だってあるのは事実だ」
 あしたのジョー2の終盤にこんなワンシーンがある。
 ジョーが最後に挑むホセとのタイトルマッチ。原作だと試合の終盤で、ホセはジョーの驚異の反撃により打たれるがままになるのだが、出崎アニメ版ではそこから立ち直るのだ。
 得体のしれないジョーの強さに怯え、恐怖を抱きながらも、愛する国のため家族のために、「それでも私はキングオブキングスだ!」と叫びながら。
 僕はどうしてかこのシーンが好きだった。憧れてを抱いているのジョーのストイックな生き方なのにも関わらず、多くを背負うホセが、自らの意地を見せるこのシーンがたまらなく好きだった。
「誰にだって、自分の生き方に対する矜持はあるんだろうな。どんなにありふれていようがちっぽけだろうがね」
 きっと、ホセもまたジョーと闘わなければいけなかったのだ。自分自身の正しさを貫くために。
 僕はなんとなく顔を動かし、窓の外へ目をやった。天気に恵まれた今日という日の終幕を告げる大きな夕陽が、西の空へとゆっくりと沈んでいくところだった。
 陽光が窓ガラスを透過し、室内にプリズムを生み出すその光景は、出崎統ハーモニー演出の真骨頂とも言えるジョー金竜飛の食事シーン(ここ洒落にならないぐらい演出が凄いです)を脳裏に呼び起こす。
 僕は無性にレモンティーが飲みたくなった。
「そういえば、紅茶の葉はまだ戸棚に……」
 言いかけて妹たちが何か言いたげな顔をしていることに気づく。
「なんだ、どうした二人とも」
「あのねえ、お兄ちゃん。今の文字数がどれぐらいだかわかってる?」
 言われてハッとした。気がつけば、とっくに一五〇〇文字なんか超えてしまっている。
「……これは教育やろなあ」
「そうそう、罰ゲームだよお兄ちゃん」
 僕は、やってしまったと思いながら、頭をかいて顔をしかめる。
「仕方ない……。それで、何がお望みだ」
 僕に言われて、二人の妹たちは顔を見合わせ何やら相談を始める。そして、しばらくしてから小悪魔のような笑みをこちらに向け、
「「修学旅行のお小遣いちょうだい!!」」
 声をハミングさせて言った。
 僕はアンニュイな表情で、一日の務めを終え退場していく夕陽と目を合わせる。ジョーがよく浮かべていたのと同じ、どこか遠くを見つめる視線で。 

(3921文字)

※参考動画
http://www.youtube.com/watch?v=0b5q3nzgttQ