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そこに物語があれば

秋田在住、作家志望兼駆け出しエロゲシナリオライターの雑記

コラム 創作練習小咄 「時代という言葉が、少し耳障りです。の巻」

 窓の外――空は鉛色の曇天に支配されていた。
 僕は窓台に肘をつき、さして感慨を抱くでもないその風景をぼんやりと眺める。体に纏わりつく気だるさの中、胸の内だけが、心だけが妙に熱くたぎっていた。
 たぎりは、回転数を増しはじめた思考と同調するように、熱い塊となって喉をせり上がってくる。
 僕は堪えきれなくなって、そのたぎりを吐き出した。つまりは、叫んだのだ。大きく、声が割れるのも気に留めずに。 
「俺たちは世代で生きているんじゃない! そんなもので人間を、文化を計れるものか! 無意味だ! 想いなんだよ。その時、その瞬間の想い。そこに世代や時代を持ち込み総括するのはナンセンスだ!」
 ……ふぅ、言ってすっきりした。ん?
 
 …………ドタドタドタ!(勢いよく階段を上ってくる足音)

 ――――バタンッ!(勢いよくドアが開く音)

「どどどっ、どうしたのお兄ちゃん! いきなり一階まで聞こえる大きな声だして」
「……兄よ、トランキライザー↑はいるか?」
「おいっ、勘違いするな妹たち。俺はまだ正気だ。キ○ガイ化したわけじゃない」
「じゃ、じゃあなんだって言うのよ。いきなりびっくりさせないでよね」
「……理由と説明を要求する」
「ふむん、それはだな。何の気なしにネット上の00年代の総括的な記事を読みあさってたら、ふいにどうしようもなく叫びたくなってな」
「……お兄ちゃん、それ超近所メイワク。そういうの止めてよね、恥ずかしいから」
「恥ずかしいとはなんだっ! 言いたいことぐらい言ったっていいだろポイズン」
「わ、わかったから。そんなにぐいっと顔を近づけて言わないでってば(汗)」
「……ところで、兄はいったい何にそんなに腹を立てていたのだ?」
「いや、別に腹を立ててたわけじゃないさ。ただ、無理矢理に世代で括ることで作品が持つ本来の価値を貶めてるような気がしてな」
「お兄ちゃんはそう言うけど、別に世代とか年代で括ったっていいじゃん。〜〜年代ヒット曲ランキングとかわたし好きだよ」
「それは僕だって嫌いじゃない。だが、カルチャー系の世代論の話になると、どうしても過去を年代で区切って切り捨てるような論調になることがあるだろ」
「……過ぎ去った流行の価値は話のタネ程度しかない……」
「過ぎ去った流行とはいうが、実のところ、新しい流行の足かせにならないように、あえて切り捨てられた流行も少なくない気がするがね」
「……終わコン理論……」
「そうだ、流行に陰りが見えるとそこに便乗して衰退を意図的に加速させるような空気を感じることが時々ある」
「何か問題なわけ、それって?」
「うんにゃ、問題はないさ。結局はそれに乗っかる人が大勢いてこそだしね」
「じゃあ、お兄ちゃんが言いたいことってつまりはなんなの? いまいちわかりにくいんだけど(不満顔)」
「僕自身も上手く考えがまとまっているわけじゃないんだが、世代とか年代で括ることで作品に余計なフィルターがかかるのはわりと不幸かもしれない、と思ったんだよ」
「……不幸?」
「カワイソウと言い換えたほうがいいのかも知れない。時代の波に乗った作品にとっても乗れなかった作品にとっても」
「ふうん、カワイソウ、か……。お兄ちゃんと一緒かわかんないけど、その感覚ってなんとなくわかるな。ほら、リサイクルショップとかに行くとさ、ちょっと前に流行ったアニメのキャラクターグッズとかが凄く安い値段で投げ売りされてたりするじゃん。あれってさ、そんなに昔の作品ってわけでもないのに、なんか切ないよね」
「最近は流行廃りのスピードが早いからな、商売を考えると仕方ないさ。おまけに、そこに世代や年代という要素が加わったりすると、輪をかけて見向きもされなくなる」
「……だけど、中には時代を越えたり跨いだりしても支持される作品もある……」
「だろうな。しかし、それこそが俺の気持ちに引っかかっている部分でもあるんだよ」
「えっと、つまりどういうこと?」
「創作について勉強しているとさ、よく言われるんだ、古典の名作を読め、って。それ自体はいいさ、古典から学べることは確かに多い。だけどな、同時に思うんだ、名作以外の古典に読む価値はないのかな、ってさ」
「……歴史に名を残す名作と、そうじゃない作品の違いとはなんぞや……」
「一番の違いは語り継いでくれる人がいるかどうかだろうな。有名な少年漫画の台詞で、人が死ぬのは人に忘れられたとき、というのがあるだろ。物語の生死も同じだよ。語り継いでくれる人がいないと簡単に死んじまう」
「……本物だけが生き残ればそれでいくないのか……」
「僕はね、流行り物ってのがあんまし好きじゃあない。だけど、だからといってそれがいとも簡単に使い捨てられる様にはどうしようもなく胸が痛む」
「でも、アーティストなんかだと、一度消えてからカムバックする人も多いよね」
「そりゃあ、人は良くも悪くも変われるからな。だが、所詮物語は物語だ。一度生まれ落ちたら変わりようがない」
「それもそっか……」
「この間、知り合った人がさ、自分が一番好きなアニメに宙のまにまに、って作品を挙げてたわけよ。それもかなり熱っぽい口調で。そんなに昔の作品でもないし、放映当時としちゃ特別マイナーってわけでもないけど、長い目で見ると間違いなく埋もれちゃう作品じゃん。だけど、その人にとってはきっといつになっても、世代が移り変わっても宙のまにまにが好きな作品の上位であり続けると思うんだよ」
「なんか、そういうのっていいね。……そのアニメしらないけど」
「僕だってよくはしらねえよ。スーパー・ノイジー・ノヴァって主題歌以外は」
「テトラファング?」
「いや、それはスーパーノヴァだ妹よ……」
「……コスモノヴァ……」
「そっちは風の魔装機神
「……それはそうと、兄よ、そろそろ話のまとめを……」
「まとめか、そうだな……、新しいとか古いとか、名作だとか駄作だとか、そういうくびきから解き放たれた状態で作品を見れるようになるとウルトラハッピーになれるかもよ、とでも言っておく」
「でも、話題に取り残されるのって嫌じゃん」
「……おっくれてるー、って部長に言われる……」
「ばっか、それがいいんだろ。五年後ぐらいにハルヒダンスを踊ったり、10年後ぐらいにネット掲示板に乃絵=池沼っていうタイトルのスレ建てたっていいじゃねえか。ちなみに俺は今年の春頃に、シスプリ咲耶スレが新規で建つのを見たぞ!(実話)」
「ねえ、Bちゃんシスプリってなに?」
「……それはね、Aちゃん、ゴニョゴニョ……(説明中)」
「えっと、なになに……うん、うん……妹が? 12人!? な、何それ、凄くヘンタイっぽいんだけど……」
「(ヘンタイか……。あの時代を生きたお兄様や兄くんや兄ィたちは今どうしてるのやら)」 そんな郷愁の念にも似た気持ちと共に、SSっぽくほとんどを台詞で構成した今回の小咄の幕は降りていくのであった。チャンチャン。