読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

そこに物語があれば

秋田在住、作家志望兼駆け出しエロゲシナリオライターの雑記

連載コラム、雑記、思い出話「ぼくと、エロゲ 第18話〜エロゲは胸にしみる・2008春〜」

 その作品と出会ったのは、少しばかり回り道をした先でのことでした。
 まず、エロゲの情報を漁っていて、『エロゲ名作選?』というブログ記事をみつけたことがきっかけだったんです。
 名作選と銘打っているだけあって、その時点でまだプレイしたことはないものの、名前や評判ぐらいは知っている作品が居並ぶ中、ややマイナーなその作品は、添えられたコメントと相まって、僕の興味をとりわけ惹きました。

  

『現在の職業がNEETか、過去に失恋した経験のある人がやると実に自殺したくなるゲーム。かく言う自分も軽く死にたくなった。そういう意味では最強の鬱ゲーかもしれない。映画『秒速5センチメートル』とあわせてどうぞ。』


nix in desertis エロゲ名作選?
http://blog.livedoor.jp/dg_law/archives/50932676.html


 上に抜粋したコメントは、「極めて秀逸なレビューがここにあるので、クリアした人は読んでみるといいと思う」と続き、別の方のレビューへのリンク先が貼られてました。
 それで、そのレビューはというと、

『挫折している人、浪人中の人、失業中の人、失恋中の人、フリーターの人、皆、人それぞれ意味で共感できる人は、この物語は「痛い」はず。「鬱」とも「悲哀」でもなく、精神的に「痛い」と思える作品に仕上がっている。物語が描くのは主人公の成長だが、物語のメインに据えているのは「男女の恋愛観の違い」であり、物語は容赦なく、恋愛におけるエゴを浮き彫りにする。濡れ場で将来に不安を抱くさまは、それなりの修羅場を経験した人は、思い出して胃が痛くなること請け合いになっている。』

 いきなりこんな一文からはじまるわけです。(笑)
http://erogamescape.dyndns.org/~ap2/ero/toukei_kaiseki/memo.php?game=3778&uid=9791


 こんな期待が膨らむようなことを書かれてしまったら、もうプレイせずにはいられなかったわけですよ。
 それがこの作品、

はるのあしおと


 この記事を書くにあたって久しぶりにプレイしてみたのですが、僕にとってこの作品は思い出深くて、そして好きな作品なのだな、と改めて思わされました。
 件のレビュアーさんは、はるのあしおとについて「痛い」と表現されてましたけど、僕はそこを「しみる」と表現したいです。些細なニュアンスの違いかもしれませんけど。
 

 このしみる物語はね、失恋からはじまるんですよ。
 それも酒の肴の笑い話にしてしまえるような当たって砕けた恋ではなく、何も云えずに終わってしまった恋。
 立場だとか資格だとか勇気だとか、そういう諸々を処理しきれず一歩を踏み出せないでいるうちに、好きで好きでたまらない相手から突然に告げられた「今度、結婚するんだ」の一言。
 

 

 ここで主人公は動揺を露わにするでもなく、普段通りに言葉を紡ぎ、わりかし冷静に心情を綴るのですが、その一見冷静なモノローグからひしひしと伝わってくる死にたくなるほどのやりきれなさが、プレイヤーである僕の心と妙にシンクロするんです。
 でね、冷静に受け止めた風を装いながらも、とてつもないショックを受けてしまったた主人公は大学に進学以来ずっと暮らしていた東京から、生まれ故郷の田舎町へとゴーホーム。
 そして、アパートの一室でひきこもりライフをスタートさせちゃうわけですよ。
 とはいえ、隣部屋に住む高校時代の後輩と思いついたようにエロゲ制作をはじめたりはしません。岬ちゃんも訪ねてはきません。
 で、ヒキニートな主人公が巡り巡って、高校の臨時教諭を務めることになっちゃう辺りからが本編のスタートとなります。年の離れた女子高生にグサリと刺さるような説教をされたりします。



 こうして書くと幾分コミカルに思えてきますけど、すごく一生懸命で真面目な作品なんです。
 そして、たまらないほどにセンチメンタル。
 失恋の受け止め方が、落ち着いているようですごく重い。そしてむちゃくちゃ引きずる。






 なんだかんだでエロゲなだけあって、キャラクターなんかは相応にデフォルメされてはいます。
 けれど、彼や彼女らが抱える苦悩や不安は真剣みを帯びているし、たしかな体温を感じる。
 これって、いまだからわかるんですけど、決して相反するものじゃないんですね。
 そういう生々しさを昼ドラみたいにインパクト優先で雑に扱うのではなく、丁寧に丁寧に描いてさえいけば、ちゃんと胸に響くんです。
「派手な仕掛けは敢えて避け、表現したいものをそのままに」とパッケージ裏に書かれているように、この作品はそういう細やかさがうかがえる作品でした。
 だから、時として痛みを覚えるのでしょう。


 こういった恋愛を軸に据えて真正面から描いている作品を、僕は、「シリアスな恋愛もの」なんて呼んだりしてますけど、この“はるのあしおと”に関しては、恋愛ものという枠だけに収まらず、成長物語としての側面も強かったからこそ、より印象に残ってるんだと思います。
 以前コラムで語った“クロスチャンネル”や“天使のいない12月”そして、いずれ腰を据えて語る日がくるであろう瀬戸口廉也作品のように、僕の人格や思考の深い部分に踏み込んではこない。だけど、気がついたら痛みを伴いながらも、胸の奥にじんわりしみていっている何かがあったりする。



 


 作中、主人公はヒロインに何気ない問いを投げかける。

「いったい何になるつもりなの?」


 僕はもう29歳になったが、この問いに対する答えをスッと口に出せそうもない。
 子供だったころと違って、適当な職業を口にすればいいというものではないから。
「いったい何になりたいのか」「いったい何になりたかったのか」
 このシンプルながらも深い問いが、この作品の根底にはあるように思えてならない。
 そこで考え込むような僕だったからこそ、“はるのあしおと”との出会いがかけがえのないものになったのだろう。


 あと、「シリアスな恋愛もの」についても少々。
 このシリアスな恋愛モノの定義ってのもあくまで感覚的なものではあるんですけど、フィクションらしい派手さはないけど、どこか地に足の着いた感じのする恋愛ものをそこに分類してます。
 時系列的には、はるのあしおとよりもあとにプレイした“僕と、僕らの夏”をはじめとした早狩武志さんの作品はまさにそれです。
 後々プレイしたCrescendoや「二つめ、三つめがある。だから初恋なんだ」のキャッチコピーが印象的なStarTrainもそういう分類ですね。
 こういう恋愛を無闇にドラマチックにせずに、しっかり正面から描いた作品と出会えたことは僕の視野を広げてもくれたと思います。
 出会っていなければ、氷室冴子さんの“海がきこえる”や大崎善生さんのセンチメンタルな恋愛小説にも手を出すことはなかったでしょうし。

※「映画『秒速5センチメートル』とあわせてどうぞ」というコメントにピンときた人は、“はるのあしおと”ぜひプレイしてみることをおすすめします。
 新海誠さんつながりというわけではないのでしょうが、妙につながるところがあって気に入るでしょう。