感想「2014年に観た読んだプレイしたもの10選」
2015年のはじめの月もほとんど終わりかけている今日このごろですが、昨年――2014年に触れた作品の中で、特に印象に残った10作を挙げていきます。
毎度のように、2014年に発表された作品ではなく、あくまでも僕が2014年に触れた作品ですのでジャンルも年代もバラバラです。
まずは映画から三作。
・荒野の用心棒
かつて世界中でブームを巻き起こしたマカロニウェスタンというジャンルを代表する一作にして、黒澤明の用心棒のリメイク。(無許可)あと、エロゲの「続、殺戮のジャンゴ・地獄の賞金首」の元ネタのひとつ。特にオープニング映像とかはまんまオマージュよ。
ストーリー自体は用心棒の優れたプロットを忠実すぎるほどになぞってまして、ここまでいったらパクリなどと野暮なことは言わずに、原作愛あふれるリスペクトと言ってあげたい。
もうね、頭から尻尾までとにかくカッコイイ映画でした。
イーストウッド演じる名無しの男のニヒルな立ち振る舞いは文句なしにカッコイイし、カメラワークもカッコイイし、音楽もカッコイイ。
特に、クライマックスの決闘シーンへの入りはもはやヒーローの様式美。
悪党どもが待ち受ける広場へ、立ちこめる爆煙の向こうから静かに現われるイーストウッドの姿は、これまで観てきた映画の中でもトップクラスのかっこよさです。
・荒野の七人。
こっちはマカロニが付かないほうのウェスタンで、黒澤明の代表作「七人の侍」のリメイク。(ちゃんと許可取ってる)
これもまたカッコイイ映画でした。
荒野の用心棒が渋いかっこよさなら、こちらは粋という言葉が似合う気持ちの良いかっこよさ。
バイオレンスで重苦しい雰囲気の漂っていた本家と違い、スマートかつ軽快なノリで物語は進み、はじめのうちは良くも悪くも軽い印象を受けてしまったのですが、観ていくうちに内包しているテーマは決して浅くないことに気づかされました。
侍とガンマン、同じく自らの武に頼る存在であることは共通しますが、侍は社会の上位身分としての側面も持つのに対して、ガンマンはどこまでいってもアウトローでしかない。侍は数百年の歴史を築けたが、ガンマンの時代はたかだか数十年の間だけ。
本家の悪役である野武士がまるで災害か何かのように非人間的に描かれていたのに対し、荒野の7人の悪役である盗賊は、貧しい農民を脅すぐらいしかできないガンマンのなれの果てとして泥臭く描かれる。
大地に根を下ろす農民たちのしたたかさは本家でも描写されていましたが、銃を持つことの誇り、そして自由と引き替えに安定した暮らしを捨ててしまったガンマンたちの悲哀が組み合わさることで、よりいっそう深みが与えられていたように思います。
・ リリィ・シュシュのすべて
ひたすら面白かったギャラクシークエストと、どちらを選ぶか悩みましたが、あとになって思い返したときに、より印象に残っていたのはリリィ・シュシュのほうでした。
観ていて愉快な気持ちになれる作品ではないです。登場人物たちには、よくないことばかりが降りかかります。
だけど、感受性に強く訴えてくるとても綺麗な映画だったんです。
放課後の校舎でどこからともなく聞こえてくるドビュッシーのピアノ曲、非現実的に青々しい田園風景、薄もやがかかった茜空。
色彩鮮やかな美しさとは違う、世界そのものが夕暮れていくような気怠い美しさは、かつて流行ったセカイ系のイメージを強く思い起こします。
次いで、漫画からは5作。
・孤高の人
孤高に憧れる人にとっての決定版。
苦難がふりかかるたびに主人公の孤高っぷりに磨きがかかり、ますます研ぎ澄まされていく様は圧倒的で言葉を失いました。
人生という名の階段を転げ落ちてる? いいや、上ってるんだ。
孤高と銘打ってるだけあって、ひたすらストイック、そして気高い。
物語のクライマックス、K2の山頂付近で進退窮まった主人公が本能のまま高みを目指すシーンは、迫力あるシーンの多いこの作品の中でも特に圧巻です。
・ちーちゃんはちょっとたりない。
2014年、方々で話題を呼びましたね。
「あー、これはたしかに色々と足りてねえや……」と、ため息をこぼさずにはいられない灰色の思春期を描いた傑作。
実際に足りてなかった人、足りてないというのがどういうことなのか肌感覚として知ってる人は心がざわつくこと間違いなし。
主人公が女の子なこともあって、僕はこの物語を客観的にしか見れませんでした。だからこそのやりきれなさを覚えてもいて、自分だったらこんなふうにはならない的な男の強がりを持ち出せなかったんです。
思春期の女の子、それもちょっとたりてない子の無力感は痛いほど伝わってくるのに、どうにもしてやれないもどかしさに胸が苦しくなりました。
ラストシーンから絶望しか感じとれなかった人も少なくないようですが、僕はそれでもナツの進む先には、スプーン一杯分ぐらいの希望はあるように思えるんです。
ちーちゃんはちょっとたりない。が灰色なら、こちらは暗黒青春グラフティ。
展開の胸糞悪さだけならリリィ・シュシュのすべてよりも上を行きます。
世の中にとって自分は無価値だと考えてしまったことのある人。無力感に苛まれたことのある人。自身の凡庸さに悶えたことのある人。
そういうダメな人にとっては何かしら刺さる要素のある劇薬のような作品です。
でもね、それでいて感傷に溺れないのがこの作品が傑作たる所以でしょう。
誰も彼も、かなわなかった夢だとか取り返しのつかない失敗だとかを抱えて、苦々しさを噛みしめながら生きてるんだけども、タフなんだななぁこれが。
だからなのか、不思議と暗くならない。
クラスメイトの鞄から3000円パクったのがばれて泥棒扱いされようがさ、まだまだ人生は続くんだから生きてくしかねえじゃん。
死のうと思ったって、ふいにムラッときてオナヌーしたくなったらしちゃうに決まってんだろ。
そういう泥臭い前向きさが力強かったです。
発表された時期の関係もあって、シュタゲやまどマギと並べて語られることも多いゼロ年代後半を代表するループものSF。コミカライズの評判がすごく良いもんだから、原作じゃなくてこっちを読んじゃいました。
物語中盤からの想像力のブーストのかかりっぷりが凄まじくて脳汁がいっぱいでた。
ここ数年、それなりに物語の経験値を積んでしまったこともあり、先の展開に驚いたことってあまりなかったんだけど、これは素直に驚かせてもらいました。
でも、あとになってみれば、ギミックよりもキャラクターたちの織りなすドラマのほうが印象に残ってます。アリスが学に銃を向けるシーンとかすごい好き。
時間も時空も超越する壮大な物語の果てに待ち受けていたオチも爽やかで良かったですね。
漫画誌に残る大傑作。読み終わった瞬間、ため息がこぼれた。
どれだけ才能や身分に恵まれようとも、本当にほしいものが手にはいらないんじゃ幸せにはなれないんだよね。という魂の孤独さが、繊細な心情描写を通して痛いほどに伝わってくる。
何年か前、秋山瑞人さんの猫の地球儀を読んだときにも近いことを思ったけど、なんともかわいそうな物語でした。
終盤、一見平静を装いながらも、その実、心がすっかりからっぽになってしまった王子の姿からは寂しさを感じ取らずにはいられなかった。
最後、小説から二作。
・スローカーブを、もう一球
アスリートたちの一瞬をロマンチシズム溢れる文体で切り取ったスポーツノンフィクション集。
“周囲の人たちは昨日までと同じように歩いていく、それに逆らうように立ち止まってみる。それだけで、人は一匹狼だろう”
この印象的なプロローグからはじまる「たった一人のオリンピック」というエピソードは特にお気に入りです。
三浪してようやく大学に入れた普通未満の青年が、ふとした思いつきでオリンピックを目指す。この荒唐無稽さに、はてしないロマンを感じました。
その他のエピソードもすべて中身が濃いです。
バッティング・ピッチャーとして裏方に徹する高校野球の元エース。ハングリーさを心底否定する都会派ボクサー。まるで二重生活者のように自動車セールスマンと二足のわらじを履くスカッシュのトッププレイヤー。クレバーな投球で強打者を手玉にとってみせる進学校のエースピッチャー。ストイックに自身の限界へと挑み続ける孤高のポールヴォルター。
ヘミングウェイの短編小説から引用される締めの言葉は、そっくりそのままこの作品の魅力を物語ってます。
「スポーツは公明正大に勝つことを教えてくれるし、またスポーツは威厳をもって負けることも教えてくれるのだ。要するに……スポーツはすべてのことを、つまり、人生ってやつを教えてくれるんだ」
・聖の青春
若くしてこの世を去った将棋界の怪童・村山聖の軌跡を追ったノンフィクション。 幼いうちから大病を患い、絶えず死の影に脅かされ続けているにも関わらず、命の火を燃やし尽くすかのように将棋にのめり込んでいく村山の姿は、読む者の胸を熱くするったらない。
中学校に入ったばかりの少年がですよ、それも体にハンデを抱えた子が「谷川を倒すには、いま、いくしかないんじゃ」って、真剣な眼差しでプロ志望を申し出るんですよ。
棋士としてもまださしたる実績がないくせして谷川浩二名人打倒を口にするなんて、無謀の一言に尽きるのは事実ですけど、これこそロマンですよ。
僕は将棋のことは最低限のルールぐらいしかわかりませんけど、そういう人間が読んでも充分楽しめるくらいドラマの濃い作品でした。
あと、この村山聖をモデルにしているに違いない三月のライオンに登場する二階堂くんの行く末って、やっぱりそうなっちゃうんでしょうかね……。
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以下、惜しくも次点に甘んじた何作か。
ちょうど20世紀末だった中学生時代に知って以来、いつかプレイしたいなあと頭の片隅で思い続けてきた作品を10数年越しにプレイすることができました。
終わることが決定づけられてしまった世界で繰り広げられる期限付きの日常、その気が抜けたコーラみたいなけだるい雰囲気がたまらなかったです。
・邪心大沼
まるで落語を聞いているかのような独特のゆるさが印象に残ったギャグラノベ。
声を出して笑うほどじゃないけれどもたしかに面白く、地味ながらもしっかり個性の立ったユニークな作品でした。
・ギャラクシークエスト
かつて大人気を誇ったSF冒険ドラマをドキュメンタリーだと思い込んじゃった本物の宇宙人が、自分たちの星の一大事を救ってもらおうと、ドラマの主役を演じていた俳優たちの元にやってくる。
この導入部からして面白そうだなあ、と思っていたら、やっぱり面白かった!
◎信者枠
・電気サーカス
唐辺葉介版人間失格。
"とにかく長生きをすることが重要で、後は大した問題じゃない。幸福であるにしろ、不幸であるにしろ、何を置いてもまず第一に生きなければいけないのだから"
この一文が綴られるラストシーンのほろ苦さはやっぱり唐辺って感じ。超好き。
◎読んだのが2014年だったのか、2013年だったのかはっきりしなくなっちゃった枠
・ゆめのかよいじ
変わりゆく町、付喪神、ノスタルジー、そこからさらに未来につなげる構成が見事。これも雰囲気が良いんだ。
2014年に読んだ確信を持ててたら、間違いなく10選に入れてました。