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そこに物語があれば

秋田在住、作家志望兼駆け出しエロゲシナリオライターの雑記

雑記、思い出話、漫画感想「いたんだよ、やっぱり、俺の、俺の高木さんが……(アニメ宝島の最終回っぽく)」

からかい上手の高木さんという漫画を2chで紹介され、なんとなく読みはじめたのは半年前ぐらいのことだった。
 からかわれ気質の主人公・西方くんと、からかい上手のヒロイン・高木さんが織りなすむずがゆくもときどき甘酸っぱい思春期なりたて青少年の日常を描いた作品なのですが、はじめのうちは「雰囲気の良い漫画だなー」ぐらいの気軽な感じに読んでいました。




 ところがだんだん読み進めているうちに、どうも胸の奥がくすぐったいとでもいうか、懐かしさで心がそわそわしてきまして……。
 というのもね、昔、僕のそばにもいたんです。
 しつこいぐらいに僕のことをからかってくる高木さんみたいな女の子が。
 シチュエーションとか関係とか、高木さんで描かれるそれとは実際は結構違いがあるんですが、この高木さんという女の子の性格や雰囲気が、なんとなくその女の子を彷彿とさせるわけですよ。


 思い出話をさせてもらうとですね、たしか……彼女にはじめて声をかけられたのは、中学校に入学して間もないころだったと思います。
 中学に入るまで僕の世界には女の子がいなかったんです。
 いや、当然クラスに女子はいましたよ。
 だけどほら、思春期に入る前の男の子ってあまり女子と仲良くしたがらないもんじゃないですか。
 女子は自分たちとは別の生き物というか、女子と遊ぶなんてダセーよな、みたいに避けるような雰囲気があったり。
 僕ももれなくそういう男子の一人だったわけですが、僕の場合、無気力な性格だとかスポーツが下手くそだとかで、自分が女子にモテそうにないタイプだというのを自覚していたからなのか、他の男子よりもちょっとばかりとげとげしかったかもしれません。
 そんなだから、ロールプレイングゲームのパーティーは男キャラばっかで固めてましたとも。
 当時ハマってたFF7は、クラウドの他にバレットとヴィンセントという男男男なパーティーでしたね。
 中学に進んでからも基本的にはそういうメンタルでした。
「あ、女子とか、興味ないっす。つーか、近よんな」みたいな感じで。
 ちょうど、FF7の主人公・クラウドに憧れていてクールガイを気取ってたせいもあったと思います。
 クラウドが序盤でよくやる、やれやれと肩をすくめる仕草をよく真似してました。(笑)
 まぁ、中二病ならぬ中一病ですね。(笑)
 だけど、僕の住んでた地域、まぁしがない田舎なんですけれど、そこは小学校から中学校に進むときに3つの学区が合併するようになってたんです。
 なので、環境が変わるそのときにいったん人間関係がシャッフルされちゃうんですよ。
 中学に進んで間もないころですか、学校が終わって帰ろうとしたときにね、同じクラスの女の子たちからバイバイって手を振られたんです。
「えっ?」って思いっきり戸惑いましたさ。
 だって、自分の世界に女子をいれないがため、とげとげしい態度でもって心の防護壁を築いてるようなやつにですよ、フレンドリーに手なんか振ってくる女子なんかいるはずねえだろと思ってましたから。あと奥二重で目つきも悪かったし。
 なのに手なんか振られちゃってさぁ。どうするよ中一の俺。
 この予期せぬ事態にどう対処したらいいか困惑する僕の脳裏によぎったのは、「クラウドだったらどうするか」でした。(笑)
 まぁね、クラウドだったらね、肩をすくめてこう言うに決まってますよ。

「興味ないね」

 よし決まり、ってな具合にシカトをぶっこきましたとさ。バカだなぁ中一の俺。
 ところがそうした矢先に、

「手ぐらい振ってあげなよ」

 と、ふいに後ろから声をかけられたんです。
 振り向くと見覚えのないショートカットの女の子が立っていました。違う小学校からきた子です。
 どことなくボーイッシュな印象をうけるその子は、「ほら、こう」と手本でも見せるようにして、僕に手を振ってくれた女の子たちに向かって手を振り返す。
「お、おう……」とばかりに、あとに続いてぎこちなく手を振ってしまう僕。
「くそっ、クラウドだったら絶対こんなことしないのに……」と内心歯がみしながらも、本当はまんざら嫌な気持ちでもなかったのを覚えてます。
 ショートカットの女の子は、そんな僕のぎこちない姿を見てクスクス笑っていました。
 これが冒頭で述べた僕の高木さんこと、中学校のクラスメイトのKさん……いや、Kちゃん……いや、さん付けもちゃん付けもしたことがないのだから、ここはやはり呼び捨てでKにしておきましょう。
 いま、この文章を書きながら思春期の思い出で胸がいっぱいになりかけているのですが、中一の僕は高木さんの主人公の西方くんみたいにピュアではなかったので、いきなり声をかけてきたKのことをあまり快くは思いませんでした。
 まぁね、なんといってもついこの間まで小学生のガキンチョでしたから、そりゃあもうバカでしたわ。
 バカだからね、せっかく気を利かせてくれた彼女に対してこんな感じのことを思ってたわけですよ。

「おのれ、おのれ女、やい、貴様が余計な真似をしてくれたばかりに、男一匹俺はな、女子に手なんか振っちゃったじゃないのさっ!」

 ああもう魂が汚れたと。クラウドみたいなクールガイに至る道が遠のいたと。
 だが、まだ修正は可能だ。いいか女、こんな戯れは今回限りだ。とばかりに気持ちを引き締めたつもりだったんですがね。
 そういう変にクールを気取った態度こそが、からかい上手の高木さんならぬからかい上手のKさんの興味を惹いちゃったんでしょうな。
 ええ、それからKが僕のことをやたらめったらからかってくるようになるわけですよ。
 ついでに言うと、僕はこの日以来、女子に手を振られたら反射的に手を振り返すようになりましたとさ。←おい、クールガイはどこいった。い、いや、クールガイだって礼儀ぐらいは尽くすさ、うん……。
 思い返してみると、普段は女子に対してぶっきらぼうなくせして手を振るとしっかり振り返してくれる面白い人、みたいな扱いをされてた気がしないでもない。
 ……全然クールじゃねえな。


 クラウドの真似をして「興味ないね」と肩をすくめてみせる僕に対し、じゃあ興味をひいてやろうじゃないのといたずら心を湧き上がらせるK。
 さすがに古い記憶なので具体的に日々どういう風にからかわれていたのかはほとんど忘れてしまいましたが、僕が女子を遠ざけようと張り巡らせていた心の防御壁を、彼女はまったく意に介していませんでした。
 つまり、ものすごく強引に間合いを詰めてくる女の子だった!
 ええい近づくな! 女が伝染る! とばかりに僕が邪険にすると、むしろ一歩踏み込んでくる。
 なっ!? 別にテレてなんかいねーからなっ!
 ただ、ハリネズミの針にうかつに触れると怪我をしてしまうように、ペーパーナイフ程度には尖っていた思春期なりたての僕は、ときに彼女の気安さに反発を覚えてしまったこともあります。
 僕は西方くんほどピュアではなかったので、からかわれたことに腹を立てて、たぶん2回ぐらいは彼女の頬をパシンと張ったことがあったはずです。
 でも、俺だってあいつに3、4発ぐらい殴られたけどねっ! しかもがっつり!


 そんな、僕が彼女に殴られたときの話をひとつ。



 これ、高木さんのちょっとエロチシズムを感じるエピソードなんですけど、こういうご褒美以外の何者でもないようなイベントがね、僕にもあったんです。あったんですよ!
 というのもね、クールガイだった俺は女子になんか興味がなかったわけです。当然エロにだってこれっぽっちも興味なんてないんです。←ウソつきめ!
 で、ある日そういうことをこれ見よがしに口に出して言ったのかもしれませんね。

「ふふーん、ほんとかなぁ〜」

 Kがやらしく微笑みます。
 そしておもむろに両手を伸ばし、スカートの裾を掴みました。

「……見せたげよっか」

 このとき僕はものすごく心拍数が跳ねあがったと思います。顔も赤かったはずです。
 しかし、男にはプライドがあるのだ!

「興味ないね」

 そう言って机につっぷす俺。←バカが! もったいねえ!

 僕のこういうリアクションを見越したうえでKはあんなことを言ったんでしょうな。まぁ、いいようにからかわれてましたわ。
「ほらほら〜見てもいいんだよ〜」って、つっぷした僕の顔のすぐそばでスカートをファサファサやってる気配がしてたまらないものがあったんですが、そこはもう頑として顔をあげませんでしたとも。
 で、少ししてからおずおず顔をあげると、「あーあ、残念だったね」とでも言いたげに、スカートの裾から手を放したKが僕を見つめてニンマリしている。
 この余裕たっぷりの態度が気に触ったんでしょうな。
 カッとなった僕は、「おうおうっ、そんなに言うんなら見せてもらおうじゃねえか!」とばかりに、ふいにスカートの裾につま先をひっかけて真上に蹴り上げました。

 ……見えました。たしか黒だったような気がします。

 それから、Kはついさっき自分から挑発してみせたのが嘘のように、まくれ上がったスカートを大慌てで押さえました。
 その慌てふためく姿を前に、――勝った。と得意げに鼻を鳴らす僕でしたが、恥ずかしいのを押し殺すように物騒な笑みを浮かべたKから、ドスッという重い効果音が付きそうなボディーブローをお見舞いされたのはその直後のことでした。
 母親を別にすれば、Kは僕を殴りやがった女ランキングの圧倒的1位です。これはずっと不動でしょう。


 高木さんと西方くんに比べるにはやや荒っぽいですが、こうして思い返してみると僕とKは良い関係だったような気がします。
 殴り殴られで、だけど後腐れなくなんて、男友達でもそこまで感情をぶつけられた相手はいません。
 いまだからこそはっきり自覚することができますが、僕はKのことが本当は大好きでした。
 けれども、どうしたって素直になれない年頃だったんです。
 あるいは自分自身の本当の気持ちをわかってなかった。
 友人たちと好きな女の子の話になったときなんかは、「Kだけは絶対にない」と、まず最初に彼女のことを候補から除外するような始末でした。
 その絶対にないはずのKこそが、もっとも気兼ねなく話せて、もっとも心の距離が近い異性だったくせに。
 いまにして思えば、Kはからかうことを通して僕に何度も好意を伝えてくれていたのに、あのころの僕にはそれを認められるだけの素直さがなかった。


 先日部屋を掃除していたら、昔Kからもらった年賀状をみつけました。
からかい上手の高木さんがツボに入ったのもありますけど、その年賀状を見てふいに懐かしい気持ちになったのがこの文章を書いたきっかけです。
 普段は当り前のように名前を呼び捨てにしあってたくせに、年賀はがきの裏に書かれたメッセージのなかで、Kは柄にもなく僕をくん付けしていました。
 そして、Kらしくない可愛い文字で書かれた“今年もまた同じクラスだといいね”の一言が目に入った瞬間、いつかの日に置き去りにしてきた甘酸っぱい気持ちで胸がいっぱいになりました。
 あのころ、どうして僕は自分の気持ちに素直になることができなかったのだろう。
 せめて、もう少し彼女にやさしく接してあげられればなと後悔する気持ちがあります。
 バレンタインのチョコレートのお返しぐらいしてやればよかったな、とか。
 夏祭りに出かけたあの日、友人たちと花火戦争なんかに興じてないで、彼女と出店を回ってればよかったな、とか。
 おまえ実はすごい可愛いよと言ってあげたかったとか。


 僕とKは中一、中二までは一緒のクラスで席も近かったのですが、中三に上がったときにクラスが別々になってしまい、それからは廊下で顔を合わせたときなどはいつものようにじゃれあったりしたものの一緒に過ごす時間は自然と減っていきました。
 遠距離恋愛の難しさは、二人一緒にいる時間がなくなり、お互いの生活のなかから相手が消えてしまうことで、それまで自然だと思っていた関係を保てなくなることなのだそうです。
 僕とKの間が広がってしまったのはクラスが別れたのが一番大きかったとは思います。
 とはいえそればかりではなく、僕が新しいクラスでKとは別の女の子からKよりももっとストレートに好意を向けられていたのも無関係ではなかったかもしれません。
 女子から好き好き光線を浴びせられてすっかりいい気になっていた中三の僕は、かつてKにつられてぎこちなく手を振ったぶっきらぼうな中一の僕ではなくなっていました。
 少し前までFF7のクラウドに憧れていたクール気どりの少年も、スケボーを小脇に抱えて側面のすり減った靴を履いたストリート系男子にジョブチェンジです。
 そんなある日、

「なんか話しかけづらくなったかも……」

 と、Kに言われたような覚えがあります。
 中三になった僕は、以前とは打って変わって女子とも普通に会話するようになってたのに。
「そんなことねーだろ」と肩をすくめてみせる僕は気さくな感じに苦笑いしていて、いつかのクールガイではありませんでした。
 そのとき彼女が言った、「タカシ(俺の本名だ!)は、わたし以外の女子とは話さなかったのに……」という言葉の裏にある感情を汲み取ってやることができなかったのがつくづく悔やまれます。
 なぁ、K、たぶんさ、おまえが2年もああして俺のことを散々からかってくれたからこそ、他の女子とだって普通に話せるようになったんだぜ。
 ……なーんてのはいまだから言える言葉。


 その後、僕とKはそれぞれ別の高校へと進み、それからは一度も顔を合わせる機会がありませんでした。
 ですが、中学を卒業したあと、一度だけ彼女と話したことがあります。
 それは僕と一緒の高校に進んだ友人が、携帯電話を買ったことを自慢したときのことです。
 ちょっと見せてくれよ。と言った僕に、友人は何やらボタンを操作してから、真新しいセルラーの携帯電話を手渡しました。
 モノクロの画面を見ると、どこかに電話がつながっています。
 どうしたものか戸惑う僕に、友人はそのまま電話に出るよう促しました。
 仕方なく携帯電話耳に当てると、聞き覚えのある声がしました。Kでした。
 友人とKは家が近所なので、電話番号を交換していたのでしょう。
 そのとき僕とKが何を話したのかは忘れてしまいました。
 たぶん高校に入学して間もない時期だったので、適当にお互いの近況を報告しあって終わりだったと思います。
 Kの進んだ高校は僕が通う高校から2つも離れた街にありましたし、小学校の学区が違うだけあって家もずいぶんと離れていました。
 僕の生活圏には彼女の姿はなく、彼女の生活圏に僕の姿はありません。
 そうなると実にあっさりとしたもので、僕と彼女の接点はいとも簡単になくなってしまいました。

「じゃあ、元気で」
「うん、そっちもね……」

 僕とKが最後に交わした言葉は、たぶんこんな感じだったと思います。
 通話を終了して携帯電話を返すと友人は訊きました。

「K、どうだった?」
「元気そうだった」

 素っ気なく答えた僕を冷やかすように友人は言います。

「おまえら結婚しちまえよ」

 僕は、「なにバカなこと言ってんだか」と、適当に受け流しました。
 ないない、Kだけは絶対にない。と、いつかのように心の内で首を横に振りながら。


 僕とKの話はこれでおしまいです。