そこに物語があれば

秋田在住、作家志望兼駆け出しエロゲシナリオライターの雑記

エロゲレビュー「それは舞い散る桜のように」

それは桜舞う季節に始まる物語
主人公・桜井舞人は進学にあたって、ひとり北国の親元を離れ、遠く桜坂市へ越してきた
桜坂は彼にとって、少年期までの多感な時期を過ごした思い出深い故郷
学園での楽しくも平凡な一年が過ぎ、新年度を迎える前日
春休み最後の一日を友人と退屈に過ごす舞人
これは、そんな何気ない日常の1ページから始まる物語
一年という期間の中で、彼らは何かを知り、何かを失い、そして何かを見つけていく…
というわけで、通称それ散ること それは舞い散る桜のように
何とも評価の難しい得体の知れない作品だ
これもまた読み手によって受け止め方が随分と違う作品だろう
「人気絵師が原画を手掛けたギャグの冴え渡るちょっと不思議な恋愛物語」
物語の表層だけをなぞるなら、これで片付いてしまう
だが、本作は、それだけで終わらせてしまうのはもったいない程テーマ性に富んでいる
俺は本作が語っているテーマは、「恋愛という形での他者との関係」だと解釈した
だが、これが絶対に正しいとは言い切れない
何故なら、本作のテーマは作中で言葉を用いて具体的に語られるものではないからだ
節々に印象的な台詞は登場するものの
「物語一編が長大な暗喩である例も多いでしょ
そのトリックとも言える筆致を見破っていく愉しみも、読書の醍醐味ではあると思うよ」
と作中で語られるように、本作は寓話的な側面が極めて強い
何気ない言葉に様々な意図が含まれており、行間を読む事を強いられる
こちらから物語に対して一歩踏み込んで読解力と想像力を働かせるのが好きな人にオススメな作品と言えるだろう
だが、そう無理に頭を働かせずとも、ヒロインの魅力やギャグのクオリティの高さのおかげで十分物語を堪能する事が出来るのも本作の優れた点だ
流行りのパロディネタではなく、主人公の奇想天外な行動に難しい語彙や哲学・文学の言いまわしをブレンドした、どこか知的な質の高い笑いは、これから先も高く評価され続けるだろう
キャラ萌えやギャグを重視する人もシナリオを重視する人も、どちらも楽しめるというのは本作のシナリオライターである王雀孫氏の次作 俺たちに翼はない にも共通する部分で、氏の作風と言えるかもしれない
これは素晴らしい長所でもあるのだが、人によって感想が激しくバラつくという欠点でもある
それにしても、これだけ個性的な作品を作り上げた氏の鋭い才能は本当に素晴らしい