そこに物語があれば

秋田在住、作家志望兼駆け出しエロゲシナリオライターの雑記

雑記、SS感想、文章解説「ちょおよくできたSSあった(|| ゜Д゜)」

 本当は軽くつぶやくだけですまそうと思ってたネタなのですが、これがどうも僕のツボに深く入ってしまったみたいでして、せっかくなのでちょいと語っておきます。
 2chのSSってあるじゃないですか。
 僕はあまり読むほうではないのですが、中には書籍化されてヒットを飛ばすものもあるなど、昨今地味に人気のあるジャンルではあります。
 先日僕は、ひょんなきっかけでこのSSのひとつを読ませていただいたのですが、これがまぁ、正直バカに出来ないぐらいテキストが上手かったんですよ。
 基本的にはキャッチーな文章なんですが、所々に確かな地力か見え隠れ。
 こういうのって、アイディアやネタの面白さが優れてるものは少なくないんですが、テキストや構成に関しては特に目を引くものって見たことがなかったんです。
 ですが今回読んだコレは、その辺が実に上手くてですね。

http://blog.livedoor.jp/wordroom/archives/51316967.html

 どんな作品かというと、通称しゃぶすたと呼ばれる、らきすた覚醒剤ネタを掛け合わせた、ちょっとどころかかなりダーティ極まりない二次創作SSなのですが、これがまた実に読ませるテキストだったんです。
 全く容赦のないブラックな展開、キャラの痛めつけっぷり、そして女の子のモノローグのテンポから、僕はなんとなく伊藤ヒロさんによく似た匂いを感じ取りました。
 まぁ、当然別人だとは思うのですが、最低でも同人経験有りのセミプロ、下手をしたらプロのライターの仕事だと僕は思いますね。
 少なくとも僕のゴーストは、そう囁いてます。
 なんというか、横書きのテキストを書き慣れてる感じがするんですよ。描写の入れ方や、言葉選びのセンスもかなり良いですし。
この機会ですから、ちょっとその辺。どういう部分がプロっぽいとか上手いなと感じたのかを解説してみましょう。
 
 その前に一つ。この手のSSを読む時に、注意して見ると面白い点として、「……」と?、!の使い方があります。
 三点リーダと呼ばれる「…」を使う際に、「……」と二つ続けて使う人や、「!」「?」を使った後にスペースを空けている人は、十中八九僕みたいなワナビ(創作屋志望)かそれに準ずる人です。
 これは創作の基本の一つなのですが、普通の人はまずその手の情報を知りません。国語の授業で習うものでもないですし、これがわかってる人は、その手の知識を自ら進んで学んだことが自ずと推察できます。

 さて、前置きはこの辺にして、しゃぶすたの話を進めましょう。

・一人称モノローグ、地の文の使い方が上手い。
 以下抜粋
「家までの帰り道は想像以上に遠く、行きの10倍、20倍の距離があるように感じました。
シャブは元気の前借りって聞いたことあるけど……もしかしたら本当にそうなのかも。
効いてるときは何をしても疲れないし眠くもならない、もちろん気分も落ち込んだりしないのに。
いったん抜けると今まで押さえていたリミッターが外れたみたいに疲れやダルさの波が一気に押し寄せてくる。
まるで溜め込んでおいた夏休みの宿題みたい。」

 これを読んだ時に、「あっ、この人はわかってるな」とピンと来ましたね。
 これはしゃぶすたの主人公であるつかさのモノローグを地の文で書いてあるんです。
 こういうモノローグが入ること自体この手のSSでは珍しいんですが、これきちんと、ですますの女の子口調になってるんですよ。
 これ、すごく基本的なことだと思うんですが、案外徹底されてないんです。
 一人称の地の文というのは、基本的に主人公のモノローグなんですよ。だから、らきすたのつかさみたいな、いかにも女の子っぽいキャラを描く時は、その子の言葉遣いを強く意識しなければいけないんです。
 どういうことかというと、「〜だ。 〜だった。」みたいな言葉を、モノローグとはいえつかさみたいな女の子が使うのは不自然だよねってことです。これが、こなたやかがみなら自然なんですけど。   
 正直これは、語るまでもない一人称を書く時の基本です。だけど、一人称で書くのがポピュラーなADVゲームなんかには、そういうキャラの性格をきちんと捉えずに、ただただ地の文としてキャラにそぐわない硬質な文を書いてしまう作者さんが少なくなかったりします。(既存のキャラを使った二次創作では特に注意)
 以前プレイした百合もののエロゲが、その辺を全然わかってなくて興ざめでした。
 ちなみに良い例を挙げるなら、田中ロミオさんの人類は衰退しました。なんかは、一人称の地の文がちゃんと女の子してて本当に上手いと思いますね。 
 あと、「まるで溜め込んでおいた夏休みの宿題みたい」という比喩表現も、つかさのキャラに合っていて上手いです。

・描写が上手い
以下抜粋
「その瞬間、1000年もの間溶けなかったアルプスの氷が綺麗な清流となって私の背中から首の後ろを流れました。
身体中の小さな毛がピンと針のように逆立って、その隙間を銀色の小さなトカゲが這い回るような感覚が襲いました。
身体の底から得も言えぬ快感、力、勇気、夢、希望、集中力のようなものが沸いて来て
でも目や頭の中はとても澄み切っていてまさに曇りなしの明瞭止水でした。」

 これ、つかさがシャブを打った時の描写なんですけど、いやはっきり言って上手いですね。
 作者が実際にシャブを経験したことがあるんじゃないかと散々書かれてましたが、そう錯覚させるだけの上手さがあります。
 こういうのって淡泊すぎてもだめだし、過剰だとネタ臭いしで、結構難しいんですよ。この程度の文章量でよくここまで情報を過不足無く伝えれるなと関心です。

・その他、上手いと思った部分

以下抜粋
「そのとき私は…………なぜか…………とても前にお父さんに読んでもらった古い物語を思い出していました。
私がまだ小さかった頃、私が理解しやすいようにお父さんが一言一言丁寧に読んでくれたお話。
……イカロスの翼の物語。
イカロスのお父さんは自分とわが子に蝋と鳥の羽で作った大きな翼を与えました。
狭い塔を抜け出し…………二人で自由な大空へ旅立つために。
お父さんは息子のイカロスに言います。
『イカロスよ、空の中くらいの高さを飛ぶのだよ……高く飛ぶと、太陽の熱で翼が溶けてしまうから』
二人は飛びました。
農作業中の人々や羊飼いたちが彼らの姿を見て、神々が空を飛んでいるのだと思いました。
しかしイカロスは調子に乗ってしまった……父の忠告を忘れ、高く、高く飛んでしまいました。
好奇心旺盛なイカロスは、太陽に近づきすぎたために翼の蝋が溶けてしまい
……そのまま大海原へと落ちてしまったのです。」

2ChのSSで、こういう寓話を挟むのなんてまず見たことないです。センス良いなぁ。


以下抜粋

つかさ「あの光の中に私のおうちもあるんだよね〜」

つかさ「私たちっていつもあんなにキラキラした光のなかで暮らしてたんだ……」

つかさ「綺麗だな〜、まるで光を敷き詰めた宝石箱みたい……」

つかさ「神様……こんな宝石箱の中に私を生んでくれてありがとう……」

 このリズム、わかりますか。
 小説しか読んだことのない人にはピンと来ないと思いますが、間を空けて喋ってるわけでもないのに区切ってしまう、このテンポはどう見てもメッセージウィンドウ式のADVゲームのリズムです。
  
以下抜粋

つかさ「…………その子…………目の横に泣きホクロがありませんでしたか?」

客A「あったな」

客B「ああ、あったよ……俺から見て右側に」

 これ目立たないですけど、僕的にはびっくりするぐらい上手いです。
 ”俺から見て右側に”なんて言い回しはパッと出ませんて。


 という感じにまあ、僕のセンサーにびんびん来るようなSSに出会ったわけです。
 他にも、構成やキャラの描き方、ネタの組み合わせも上手いとか、躊躇してる感じも酔っている感じもしなくて書き慣れてる風だとか色々とあったのですが、とりあえずこの辺にしておきましょう。
 何を持って上手いと判断するかは人それぞれでしょうが、このSSを上手いと感じた僕自身の感性には、これからも素直に従っていきたいと思う次第です。 


……しっかし、よくあれだけクスリに関する情報をインプットしてるな。すげえ。