そこに物語があれば

秋田在住、作家志望兼駆け出しエロゲシナリオライターの雑記

連載コラム、雑記、思い出話「ぼくと、エロゲ 第1話〜2006・それは雛見沢からはじまった〜」

 記憶というやつは、洗濯したあとの靴下みたいなものかもしれない。と、ある日ふと思った。
 洗って、乾かして、きちんとタンスにしまったはずなのに、いざ履く段階になったら、片っぽだけどっかいってしまったのが、一足か二足はあったりなんかして。
 あるいは、どっかにいってしまったことにすら気づかなかったり。(気づかねえどころか、探しても出てこない靴下がリアルにあるんですけどどうしたもんか。神隠し?)
 つまり、自分ではちゃんと覚えているつもりでも、いざ思い出そうとしたら頭の中の引き出しから記憶が全然でてこなかったりすることって案外あるよね、ということなのです。
 それか、忘れたことにすら気づけないとか。
 
 でね、僕はこの度思い立ったのですよ。自分にとって大切な記憶を、忘れてしまわないうちに書き留めておこうと。
 今現在の僕。
 ちゃっかり創作なんかはじめちゃって、結構マジにプロとか目指しちゃってる自分を形作る大きなきっかけとなった“あの存在”との出会いを整理して書き記そうと。
 そういうわけで、年度も新しく変わったことですし、ちょいと今回から回顧録的なものを少しずつ書いていってみます。
 題名は思いっきりストレートに、
『ぼくと、エロゲ』
 こんな感じでいきます。
 まぁ、どこにでもいる平凡なエロゲーマーの思い出話ですね。
 出てくる作品は、面白かった面白くなかったよりも、僕にとってその時々で強く印象に残ったタイトルがほとんどです。



『ぼくと、エロゲ 第1話〜2006・それは雛見沢からはじまった〜』

 第1回ワールドベースボールクラシックが、王監督率いる日本チームの優勝で終わった2006年、春――。

「もしかしたら電気系統かもな……、あるいはプラグとか」
 僕が口にしたぼやきのなかには、落胆の響きが多分に含まれていた。
「かれこれ、一冬もエンジンかけてなかったっすからねえ。雪の重みでワイパーアームももげちゃってたし」
 隣で話す後輩の口調にも、僕ほどではないにしろ落胆の色が目立つ。
「まぁ、バッテリーがあがってるのぐらい予想してたけどさ、充電してやりゃあエンジンぐらい簡単にかかってくれると思ったんだよ」
「俺もそれぐらい簡単に考えてたっすよ。雪降るまでは普通に乗ってたんだし」
 夜、たしか11時は回っていたと思う。話をしていた場所は、当時近所にオープンしたばかりのヤマザキデイリーストアの駐車場だった。
 何について話していたのかというと、Yくんという僕の後輩が車を新しいのに乗り換えるにあたって、以前乗っていたR33スカイライン・タイプMを廃車にしてしまうらしく、それなら、ということで僕がスカイラインを安く譲ってもらう約束をしていたのである。
 だが、平成18年冬の怒濤のような豪雪に埋もれてしまっていたスカイラインは、消耗していたバッテリーを充電したぐらいでは動き出してくれず、だからといって、別に愛車を持っていた僕は、元々ナンバー無しの遊び車にするつもりだったスカイラインの修理や運搬に金をかける気にもなれなくて、結局は当初の予定通り廃車にすることに決めたのだった。
 とはいえ、楽しみが潰えるというのは、やっぱりがっかりせずにはいられないものである。
「くそう、もったいねえよなぁ。デフだってニスモのが入ってるんだろ? FRなんだし、協和(地元のミニサーキット)に持ち込めば結構面白いと思うのによ」
「ほんとそうっすね。どうせなら、ひとまず4Eさんの家までスカイラインを牽引して運んで、それから時間をかけてゆっくり直すって手も……」
 その場に居合せていたもう一人の後輩――Hくんが提案するが、僕は首を横に振った。
「だめだめ、こっから俺んちに辿り着くまでの間に、きつい坂があるの知ってるだろ。そこをエンジンのかからない車を牽引して上るのは無茶だよ。1300しかない俺の車じゃ、1・5トン近い2500の車を引っ張っていけるもんか」
「ああ、あの坂はきついっすからねえ。やっぱだめかぁ」
 すっかりお手上げだった。
 数人がかりで押しがけを試してみたりもしたが、どこに原因があるのか一冬寝ていたRB25エンジンは、ウンともスンとも云ってくれなかった。
 そんなわけで、すっかり予定が狂ってしまった僕らだったのだが、そのまま解散してしまうのもなんだか名残惜しかったりして、深夜のがらんとしたヤマザキデイリーの駐車場で雑談に興じていたのだ。
 あそこで話していたことの大半は、もう思い出すことができない。おおよそたわいのないことだったろう。
 ただ、その後の経緯もあって強く印象に残っているのが、断片的に耳に入ってきた後輩たちの会話だ。
「……まさか……の……看護婦さんが……で……」
「そうそう、あの……頭をパーンって撃たれるところには、マジでびっくり……」
「……が……で、びっくりしたところといえば……編で……――……の目玉のアップが……」
 彼らが何について話をしているのか、当時の僕にはよくわからなかった。
 それに、改まって訊ねてみるほど興味も、そのときはあんまり湧かなかった。
 後日、空いた時間に、ふとそのときのことを思い出した僕は、記憶のなかから彼らの会話の断片を拾って、何の気なしにネットで検索をかけてみた。
 06年当時、僕の住む地域にはまだインターネット回線が開通しておらず、ネットといえば、携帯を使ったezwebでの情報閲覧だった。
 ちょうど、パケホーダイ(この単語も懐かしいですね)が一気に普及しはじめていたころで、こと情報収集ぐらいなら、携帯でも充分こと足りていたのだ。扱うデータ量が大きい動画サイト等がまだ全然メジャーではなかったのも大きい。
 そして僕は、彼らがいったい何について話をしていたのかを知った。
 どうやら、彼らが話していたのはゲームについてらしい。
 そのゲームはPS2やXBOXではなく、パソコンでプレイするゲームで、それも一般の流通には乗らない同人制作のノベルゲームだとのこと。
 どうりで、聞き覚えがないはずだ。当時の僕は、とてもオタクとは呼べないぐらいその手の知識に疎かったから。
 また後日、Yくんの家に遊びいったときに、僕はそれとなく訊いてみた。
「なあ、――……(ゲームのタイトル)って、そんなに面白いのかよ?」
 Yくんは、ニヤリとして答えた。
「やってみるっすか?」
 そっと、ゲームディスクが収められたCDケースが差し出される。
 パッケージデザインはかなりシンプル、というか正直いって安っぽい。さらに云わせてもらうなら、パッケージに描かれているキャラクターのイラストは、お世辞にも上手いとは云えない。
 やけにおどろおどろしいフォントで書かれた作品のタイトル、そこにはこうあった。

ひぐらしく頃に』

 赤に着色された「な」の文字が、妙に僕の目を惹きつけていた。


※余談・2006年ってそういえばまだ動画サイトが全然一般的じゃなかったんですよね。
 動画をアップローダーに上げたり、掲示板に貼り付けたりするのがポピュラーでした。
 今じゃかなりヤバ目のエロ画像や動画が、まだ普通に貼られてたのを覚えてますww