連載コラム、雑記、思い出話「ぼくと、エロゲ 第三話〜2006師走 眩しかった日のこと、エロゲに引き込まれた日のこと〜」
静かなはじまりだった――。
プロローグで物語のバックグラウンド的なエピソードが語られたあと、銀色という作品の本編は静かに幕を開けた。
語り手は少女だった。
容易に逃げられぬようにと足の腱を切られ、ただぼんやりと自らの命を明日へ繋ぐためだけに、遊女屋で客に体を開く悲しい少女。
少女は自らがされている行為、そして置かれている境遇すら、よく理解していないようだった。
少女は云った。
「わたし、生きてるの?」
というわけで、鬱ゲーなる単語に引かれ、僕はさっそく“銀色”を購入していた。
購入するに当たって利用したのはヤフーオークション。
当時の僕は、通販サイトの存在をまったく知らず、そもそも近隣にはエロゲを扱っているゲームショップもなくて、パッと思いついたのが、ひぐらしを買うときにも利用したヤフオクだったのである。
具体的にいくらで購入したのかは失念してしまったが、かなり安い値段だったと思う。
銀色(正確には完全版ですが)は2001年発売の作品で06年当時からすれば、すでに充分な旧作であり、値崩れしてて当たり前だった。
だが、これがなんともありがたかった。
ケチな話だが、僕はそのころまだエロゲというジャンルを深くは知らず、その面白さをまだ疑ってもいて、たかがエロゲなんかに数千円をポンと出すのには抵抗あったのだ。
そうして、銀色は僕の手元にやってきた。
ヤフオクに訳ありで出品されてたのを適当に落札しただけだったので、箱は付属しておらず、届いたのはゲーム本編のディスクとサントラだけ。プレイ前の期待値はそこそこといったところ。
面白さに期待していたというよりは、鬱ゲーという聞き慣れないジャンルへの好奇心のほうが大きかった。
正直に云うと、どこか下世話に、色モノ的な見方をしていたのだ。
しかし、
しかし、
しかーしっ!!
プレイをはじめて数時間、気がついたときには、自分でも信じられないぐらい物語に引き込まれいる僕がいた。
鬱ゲー?
ああ、たしかに陰鬱で暗い物語だったよ
だがなぁ、そんな安い言葉でこの物語を括らないでくれ。
この物語は悲劇だ。
とびっきりの悲劇だ。
そして、特上の悲劇というやつは、触れた者をただ沈んだ気持ちにさせるだけではなく、感動を呼び起こさずにはいられないんだ。
大げさかもしれないが、魂が打ち震えていた。
プレイし終えたときには思わず拍手をしていたほどに。
――エロゲ
こいつはとんでもないものに手を出したのだと、僕は確信していた。
そう信じられるだけの何かが、心を揺さぶっていた。
そうなると次へのアクションは早い。
ネットの海に潜り、エロゲには他にどういった素晴らしい作品があるのか、ひたすら情報を集める。
乾いたスポンジが水を吸収するように、エロゲに関する様々な情報が怒濤の勢いで頭に入り込んでくる。
正直云って、それだけでも楽しかった。
まず、あらすじに目を通し、想像力を働かせてどんな物語なのかに思いを馳せる。
知らないということは、これからいくらでも知ることができるのだ。
世界が新たに開けていくことへの感動が、僕をさらに突き動かす。
ネットで調べる前から名前だけは知っていた作品。
調べてはじめて知った作品。
妹が病弱なアレ
主人公が米国で拉致されて殺し屋をやらされるアレ
その街には夏がやってきてたアレ
元々、活字を読むのは嫌いでなかったのもあって、エロゲへの興味関心は日々高まっていくばかりだった。
余談 ※ワケありで安いのも多かったですけど、ヤフオクで売られていたエロゲは基本的に相場よりやや高めでした。
それでなくても送料とか手数料が通販業者より割高でしたしね。
06年当時はアダルトカテゴリーじゃなくて普通のPCゲームソフトのカテゴリーにエロゲが普通に出品されてたんですよ。