雑記、回顧「2013年を振り返ってみて後編・読んで印象深かったラノベ、映画、アニメ他」
2013年・印象に残った小説、ラノベ
・なつき☆フルスイング! ―ケツバット女、笑う夏希。 /樹戸英斗
あんまり期待をしていなかったのに、思いがけず当たりを引いたときって、すごく印象に残りますよね。
この作品がまさにそうでした。
夢、挫折、再起っていう流れとしてはありふれたテーマなんですけど、だからこそ身につまされることの多いネタでもあって普遍的に共感しやすいんですよ。
それでいて、上ばっか見てるんじゃなくて足下にもちゃんと目を向けているからアスリートじゃなくても感じ入るものがある。
作中でヒロインが口にするアマチュアイズムの肯定は、プロ作家を目指している今だからこそ、好きなものとの向き合い方を考えてみる良いきっかけでした。
「野球っつったら甲子園ぐらいしか思い浮かばないのかおまえは! おまえの野球が好きな気持ちはその程度なのかよ。年間百試合以上こなしてるタレントや漫画家がいるって知らないの? 素人がだよ。プロ並みの試合数をこなしてるんだよ。筋金入りの野球バカどもは、甲子園に出られなくたってプロに入れなくたって、河原にある球場とも呼べないようなグラウンドで図体のでかい大人のくせして子供みたいに白いボールを追っかけてるんだ。貴重な休日を潰して、休養どころか逆に疲労がたまるってのにバットを手放さないんだ。それほど野球が好きなんだよ」
作品自体に関してはもはや説明不要ですね。21世紀以降のラノベを代表する一作なのに、実はこれまで読んだことがなかったんです。
で、読んでみて感じたのが、ヒロインでもあり実質的な主役でもある涼宮ハルヒって、切り取られた場面だけを見ちゃうとすごくエキセントリックなキャラなんだけど、その実どこにでもいそうな普通の女の子なんですよね。
本人もそのことをいやというほど自覚していて、だからあえてエキセントリックに振る舞っている。普通はいやだから、特別でいたいから。
作中で、ハルヒが自分のちっぽけさを自覚したエピソードとして、家族で野球場に出かけて人の多さに驚いた話を早口でまくし立てるんですが、これには僕も共感するところがありました。
こういう非日常だとか特別な何かだとかに憧れる気持ちって、創作物を好むような人ならみんなが大なり小なり抱えてると思うんですよ。
それはハルヒだけじゃなく主人公のキョンくんも同じなんですけど、彼はもうそこを通りすぎようとしていて諦めかけてもいる。彼の気怠い態度はそこからきているんでしょう。
そういう、どこか行き場所のない想いを感じ取ったせいか、この作品の明るさが、まるで空元気のように思えてしかたがありませんでした。
ああ、もしかしたら、ハルヒが明るく振る舞いつつも、いつもカリカリしてるのもそういうことなのかもしれませんね。
創作の参考にしようとの思いもあって、ラブコメも結構読んでるんですよ。
定番の俺妹やら、少し前のヒット作であるところのかのこんとか乃木坂春香とか。
で、色々読んでみたわりには、印象に残る作品はあまり多くなかったんですけど、その中で不思議と好感触だったのがこの作品なんです。
ストーリーが特別面白かったわけではないし、キャラクターもそこまで個性的だったわけではありません。
だけど、嫌味な部分が全然なくて、すんなり作品に入り込めたんですよね。
良い意味で自己主張が弱くて、妙な押しつけがましさを感じなかったんです。
今や人目を引いてナンボなところがあるラノベ業界だからこそ、新鮮味のない素材で真っ正直にラブコメをやっている素朴さが好印象につながったんだと思います。
言葉通りの意味でライトな作品として楽しめました。
ラブが頭に付かないコメディです。
旬なネタや何らかの文脈の上に成り立つネタに頼ってないからこそ、時代を経ても面白さが色あせていないのでしょう。
読み応えには欠けますけど、邦画のコメディみたいな軽妙な面白さがありました。
2013年・印象に残った映画
・ エルアラメイン 炎の戦線
戦争映画その1
イタリア軍を主役に据えた珍しい作品。
北アフリカ戦線が舞台、つまりは砂漠地帯です。
戦争映画なんだけど、妙に綺麗なところばかりが印象に残る作品でした。
暗闇の中、花火のように輝く照明弾。
戦友たちと見上げる満天の星空。
血がたぎるようなシーンはほとんどないのに、気がついたら映像に見入ってました。
・Uボート
戦争映画その2
潜水艦は狭い暗い、そして怖い。
戦争映画というよりは、閉鎖空間を舞台にしたパニック映画みたいな展開ばかりが続く作品です。
第二次大戦中の潜水艦って、守りに回るとこんなに弱いんだなと勉強になります。
逃げて隠れて、たまに魚雷撃って。
そんな爽快感はあまりない、むしろ息苦しさばかりが伝わってくる作品なのに、これが妙にかっこよかったりもする。
そのかっこよさを演出するのにBGMが一役も二役も買っていて、これがまた素晴らしいんですわ。
戦争映画その3
もはや戦争映画の枠を超えた大傑作。
反戦映画なんて温いものではなく、嫌戦映画といっても差し支えないぐらい苛烈に戦争を批判している。
戦争って怖いね、悲しいね、やっちゃいけないね。で思考停止せずに、その先にある本質を見抜く眼差しは鷹のように鋭い。
戦争は国家政策の延長であるというクラウゼヴィッツの言葉を引用した上での、
「小隊の未来は現在も過去も中隊なくして有り得ない」
「心得ていますが、人それぞれに自分らしい生き方がありまして」
という民主主義の基本を思い起こさせるやりとりは実に深い。
あと、主人公のシュタイナー伍長のかっこよさは異常。
・生きる
・七人の侍
親父が急に黒沢映画に目覚めたみたいでツタヤから借りてきたので、この機会に観てみた。
……ええっ、この映画いったい何年前のよ!?
プロットの優秀さが感嘆に値するレベル。こりゃハリウッドも真似するわ。
特に7人の侍はエンタメ作品の手本みたいなもんなので、創作やる人は一度観ておいたほうがいいですよ。
7人いる侍のうち誰に好感を抱くかで、その人が理想とするキャラクターのタイプがよくわかります。
生きるのほうは、まず終戦からたった7年しか立っていない時期に公開された映画であることに驚く。
人が生きる意味というテーマがいかに普遍的なのかがわかります。
ハッピーバースデーの歌を効果的に使った演出は、意図があからさまだけど上手すぎてびっくりする。いつかオマージュしてやろう。
NSR250乗りの後輩宅で視聴。
これまで観た映画の中で三本の指に入るであろうカッコイイ作品。
アンソニー・ホプキンス演じる主人公が実に粋でもう最高。真似して、『GOD OF SPEED』って壁に描きたくなる。
「(レース中の)5分は一生に勝る。一生より充実した5分間だ」
とか、夢中になってサーキット走ってたころを思い出してジーンときたよ。
まさに男のロマン。
やっぱ枯れてちゃ人生つまんねえよな。
2013年・印象に残ったアニメ
・ガッチャマンクラウズ
普段あまりアニメを観ない僕ですが、一目置いているブロガーさんがやけに押してたので観てみました。
これは観て良かった。
エンタメとしての面白さ以上に、語らずにはいられなくなるタイプの面白さがある作品でしたよ。クラウズ論壇とか、観る前は斜に構えて舐めていたくせにハマってんでやんの。
ヒーローって何なんだろう? とか考えてみたことのある人は観るべし。
「ヒーローってなんすかね〜♪ なんなんすかね〜♪」って主人公もルンルン歌ってるわけだし、この作品を語る上で外せないテーマです。
しかし、これと絡めてキーチを紹介してくれた人には感謝してもしたりない。
・風立ちぬ
公開されてすぐに映画館まで観にいってきました。
飛行機とか戦争とか恋愛とかよりも、天才を描いた作品だなと思いましたね。
主人公の空を見上げる眼差しのまっすぐさが強く印象に残ります。それこそ怖いぐらいに。
あれって、やっぱり空に取り憑かれちゃってるんだろうなぁ。
・宝島
ずいぶんと昔の出崎アニメです。
方々から高評価っぷりは何年も前から知ってたんですが、なかなか手が出なくて2013年になってようやく視聴。
うっわ、これも魅力の塊だ。
名作劇場みたいな子供向けアニメのくせして、主人公と、ジョン・シルバーっていう敵役のおっさんとの関係性が濃密すぎるったらない。
相手がどんなイイヤツだろうと、立場が違えば全力で叩きのめさなければならないときがある。というのを、手心一切無しに描ききっている。
だから妙にハラハラするんですよね。
スポーツでひいきのチーム同士が闘っているのを見守る気持ちに近い。
魅力的なキャラなら、なんだかんだで味方に引き込んどけばいいじゃん。なんていう甘さを徹底して排除したストイックな作品でした。
2013年・印象に残ったエロゲ
・メイプルカラーズ
2003年の作品なんですが、その当時としてもちょっとレトロなマップ移動型ADVです。
退学の危機を乗り切るために、学園祭でクラスの演劇を成功させろ! というあまり捻りのないストーリーで、ミニゲームを交えながら仲間を集めていくのが作品の基本線になってます。
ストーリーやらキャラクターやらゲーム性やら、一つ一つを見ていけばそこまで魅力に富んでいるわけではありません。
ですが、いざプレイしてみると、これがなかなか面白い。
エンタメとしてのバランスが良く、思った以上に時間を奪われてしまいましたとさ。