そこに物語があれば

秋田在住、作家志望兼駆け出しエロゲシナリオライターの雑記

創作、小説、掌編「よみがえる日」

800文字文学賞は一人あたり月に二回の投稿が認められています。
本当は前回掲載した「サヨウナラの涙」だけしか投稿するつもりはなかったのですが、ニュースやら何やらを見ているうちに、ちょっと駆り立てられるものがあったので一作書き上げてみました。
何だか小説よりも詩に近くなってしまいましたが、タイムリーなネタを使った姑息な一作です。(800文字ジャスト)

「よみがえる日」

「俺が漁師の家に生まれたのは天命なんだ」
そう言って笑いながら漁作業で荒れた手を自慢した彼は真っ黒な波に呑まれ海の中に消えた。
「ここの海に映える朝焼けは千金にも値する」
遥か水平線の彼方から立ち上る朝日をファインダーに収めながら呟いた彼は未だ瓦礫の下で眠っている。
「この災害は天罰だ」
どこかの偉い政治家がそんなことを言った。
天罰? 上等じゃあないか。
確かにこの世界には神だとか運命だとかいう、とても大きな何かが存在するのかもしれない。
だが、それがどうした。
僕たちはそんなものに負けたりなんかしない。


瓦礫と化した街を歩く。
猫を見かけた。誰もいなくなった市場から失敬してきたと思われる鯖をくわえていた。
後ろに続く影が二つ、子猫だった。親子三匹で鯖を貪る姿は生の力を強く感じさせた。
彼らは生きようとしていた。
フキノトウを見つけた。崩れた小屋の残骸に日差しを遮られながらも光を求めて土の上に顔を出していた。
この辺りは一度海水に浸かった筈だ、塩害の影響も少なくはないだろう。それでもなお、自らの健在さを世に示すかのように精一杯葉を広げる姿は生の力を強く感じさせた。
彼らは生きようとしていた。
人に出会った。かつて自分たちの会社であった瓦礫の山を掘り起こしているのだという。
皆、辛そうな顔をしていた。だが、誰一人、目は死んでいなかった。
絶望に直面してもなお、希望を捨てないその姿は生の力を強く感じさせた。
彼らは生きようとしていた。
獣も草花も、そして人間も。皆、生きようとしていた。
どの生き物も、諦めてなどいなかった。
僕は確信した。
この街は絶対によみがえる。
僕たちは未来へと語り継ぐだろう。
この悲劇のことを。そして、この悲劇から立ち上がった人々のことを。


空を見上げる。
透き通るような真っ青な空。
その遥か上に向けて僕は力一杯叫んだ。
「僕たちは絶対に負けない!」