そこに物語があれば

秋田在住、作家志望兼駆け出しエロゲシナリオライターの雑記

創作、小説、掌編「悲しくて嬉しくて腹が立ってやりきれない」

毎度の800文字文学賞の四月期投稿作品です。
四月はなかなか時間が取れなかったために、最後の休日に速攻で仕上げました。
やはり、800文字というのは、帯に短したすきに長しですね。
一応、四月というのを意識した一作となっております。
ちなみに三月期は、嬉しいことに「サヨウナラの涙」が佳作に選ばれました。



『悲しくて嬉しくて腹が立ってやりきれない』


「シンのやつさ、もう永くないんだ」
 ユウくんが口にしたその一言を、私は理解することができませんでした。
 カレンダーの日付が三月から四月に変ったその日、突然告げられた悪夢のような事実。
「嘘……」
「そうだったらよかったんだけどな」
 いつものユウくんからは想像もつかないような重苦しい表情、暗く沈んだ声。
 シンちゃんが、永くない? それってつまり――
「あいつさ、もうすぐ死ぬんだ……」
 シンちゃんが、死ぬ。
 それは彼が私の前から永遠に姿を消すという意味。
 私の大好きな、あの優しくてあったかいおひさまみたいな笑顔がもう見られなくなる。
……そんなのイヤ!
「で、でも昨日までシンちゃん元気だった」
「無理してるに決まってんだろ!」
 震える声で言った私に怒鳴るユウくん。彼の泣き出しそうな表情が、全てが真実であることを物語っていました。
「……っ……っ」
 私は言葉も出せず、ただ口を押さえて震えていたと思います。
 このとき初めてわかったんですけど、人って本当に悲しい時は泣くんじゃなくて言葉が出なくなるんですね。でも、そんなこと、わかりたくなんてなかった……。
「それで、だ。おまえ、シンのやつに告白しろ」
 な、なにそれ……言ってる意味がわからないよ。
 反応に困っている私にユウくんは続けます。
「おまえ、シンのことが好きだろ。シンのやつもおまえが好きだ」
 シンちゃんが私のことを好き?
「だけどな、あいつ……自分の体のことがあるからって言えずにいるんだ。だから頼む! おまえから言ってやってくれ。無理してるあいつの顔、もう見たくねえんだよ」
 そう、叫んだユウくんの目から涙がこぼれ落ちるのを見た瞬間、私はシンちゃんの家へ駆けだしていました。
 二人の想いを知って、自分を抑えることなんか出来なかったんです。
 それから先のことも含めて、私はこの日を忘れることはないでしょう。
 凄く悲しくて、凄く嬉しくて、凄く腹が立った、一七歳のエイプリルフ−ルの日のことを。

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