そこに物語があれば

秋田在住、作家志望兼駆け出しエロゲシナリオライターの雑記

創作、小説、掌編「僕の願い」

毎度の「800字でつづる掌篇小説の文学賞」五月期投稿作品の一作目です。
いつもは、イイ話ばかり書いてるので、今回は少しだけ趣向を変えてみました。
ちなみに、四月期は「たくさんのはじめて」が佳作に選ばれました。


『僕の願い』


「お願いです。雪を降らせてください」
 五月の空を見上げ、僕は祈った。
 神様に、願いが届くよう、心の底から祈った――。


『雪が見たい』
 それは、余命幾ばくもない妹が口にした、最後の願い。
 幼い頃から病気がちで、普通の女の子らしく生きることを許されなかった妹が望んだ、ちっぽけな奇跡。
 毎年春の遅いこの地方では、五月に入ってからも雪のちらつくことが全くないわけじゃない。それは奇跡なんて言葉を持ち出す必要がないぐらいには起こりえる偶然なんだ。
 だから……だから、神様お願いです。その偶然を、妹が生きているうちに起こしてはくれないでしょうか。



「お願いです。雪を降らせてください」
 病院の屋上に上った僕は、今日も空に向かって祈り続ける。
 神様に願いが届くよう、一生懸命祈り続ける。
 だけど、神様はなかなか願いを聞き届けてはくれない。
 天気予報はぜんぶ晴れ。雪どころか、雨のマークすらありはしなかった。
「……ちくしょう」
 思わず唇をかむ。妹は日に日に弱っていくばかりで、一日のうちで目を開けている時間は、もう僅かになっていた。
「お願いします……お願いしますっ!」
 空に向かって声を張り上げる。だけど、目の前に広がるのは、泣きたいぐらいに真っ青な空。
「……なんでだよ。雪ぐらい降らせてくれたっていいじゃないかぁ!」
感情がはじけ、今までため込んできた想いが次々とあふれ出す。気がつくと、僕は泣いていた。
「こんな世界、滅びちまえばいい……」
 神様への、世界への呪いの言葉を吐く。
 しかし、その時、信じられないことが起こった。
 空から舞い落ちる、白いなにか。それは、紛れもなく――――雪。
 晴れ渡る空の下、確かに雪が降っていた。
 僕は、早く知らせてあげようと一目散に妹の病室へ駆け出した。願いを叶えてくれた神様への感謝を胸に。



――この時、僕はまだ知らなかった。この雪の正体を。遠くの街にミサイルが落ちたことを。
 そしてしばらくして、僕の願いは、全て叶った。

(800文字ジャスト)