そこに物語があれば

秋田在住、作家志望兼駆け出しエロゲシナリオライターの雑記

連載コラム、雑記、思い出話「ぼくと、エロゲ 第二話〜そして歯車は回り出す〜」

 CPU Celeron 366MHz
 メモリ 64MB
 HDD 8・1GB
 OSはWindows98

 これが、2006年当時に僕が持っていた東芝製ノートPCのスペックである。
 使っていたではなく持っていたと表記したのは、言葉通りほとんどあるだけの置物と化していたからだ。
 このレベルの性能は当時としてもかなり旧型だった。そもそも僕が中古で購入したのが2004年の頭なのだから、古くなってて当然だ。(中古ショップで37800円ぐらいでした)
 でも、同人ゲームで要求スペックの低い『ひぐらしのなく頃に』をプレイするには充分だったのだ。
 そうして、後輩Yくんからひぐらしを借りてきた僕はさっそくPCにインストールしプレイしてみることにした。
 ミステリー、サスペンス、ホラー、いわゆる猟奇ものらしいという程度の前情報は頭に入っていた記憶がある。
 で、プレイしてみた感想はというと、

「………………」
「……………………」
「…………………………」
「……………………………………何これ、面白いんですけど」

 ええ、ええ、面白かったですとも。
 振り返ってみると粗も目立ってたし、つっこみどころのある部分も多かった。
 よかったところ、わるかったところを別々に挙げたら悪かった部分のほうがたくさん出てくると思う。
 でもでも、無茶苦茶楽しめたのは揺るぎない事実なんですよ奥さん。
「あー前半たりいなえっ何これいきなり空気が変わったんだけど嘘だッ! ってううう嘘じゃないよってか主人公頭おかしくなってないえっこんなとこで1章終わっちゃうのかよカントクって誰だよ2章ってまた最初からはじまるのかでこんどはどんなはなしにうおっ魅杏の双子の妹があれなんかかわいいんですけどとか思ったら目がいきなり出てきてこええつうか人死にすぎだろああこれも救われねえENDかよホラーじゃねえかんじゃ次3章っとうおおお沙都子めちゃくちゃかわいいじゃねえかブヒィィィ今までそんなそぶりなかったくせににーにーってなんだよフヒヒって萌えてる場合じゃねえてめえ鉄平このやろう! 許しちゃおけねえおおよくやったぞ圭一くんナイスバッティングのはずなのになんかまた怪しい雰囲気……どころじゃねえよ今度は何人死んでんだよ全滅じゃねえか……(中途略)……えっ、ループってなんすか!? あと秘密結社みたいなのが暗躍してただぁ!?」
 とかまあ色々楽しませてもらいましたとさ。
 ひぐらしがどんな作品なのかについては今さら感があるので割愛するが、引きつけかたというのが、あの作品は本当に神がかっていたと思う。
 容赦ない惨劇に冷や汗を流しながらも、先の展開が気になって仕方がない。絵は掛け値無しにひどいのに、それを補ってちょっとした演出や音楽の使い方が上手かった。
 これは、あのころリアルタイムでひぐらしにはまっていたほとんどの方がうなずいてくれるのではないだろうか。
 そして僕はあっという間に当時出ているだけのひぐらし(解の皆殺し編まで)をプレイし終え、締めとなる祭り囃子編を待ちわびる立場になっていた。
 ちなみに、当時まだひぐらしは完結していなかった。僕が手を出したのは、ちょうど本格的なブームに火がつきはじめる直前の時期だったと思う。
 ああいったゲーム形態。ノベルゲーム、選択肢のないヴィジュアルノベル。
 当時の僕にはほとんど馴染みがなかった。
 PS版のTo heartやEVEシリーズ、ポリスノーツ辺りに一時期ハマったことこそあったが、それもすっかり昔の話で、結構なブランクがあったのである。
 ひぐらしの話に戻るのだが、僕はこれまではYくんから借りてプレイしていたひぐらしを、完結編だけは自分で買った。
 2006年夏の終わりごろだったろうか。
  
↑祭り囃子編を買った人ならこれが何かわかるはず。

 そうして、しばらくの間僕を魅了し続けたひぐらしの完結を見届けた感想はというと、

「うん……まあその……これはこれでいいんんじゃないかな……なんて」
 そこまで否定的ではなかったが、大方のプレイヤーさんたちと同じようなものだった。まあ、ラストまでがむごいエンディングの連続だったので、あれでよかったのではないかなとは今でも思う。
 
 というわけで、僕が数ヶ月どハマりしていたひぐらしは完結した。これは終わりを意味するのか。否、はじまりなのだ。

 ひぐらしのストーリーと同等かそれ以上に、ビジュアルノベルという表現形態に僕は魅了されてしまっていたのだ。
 当時、僕はオタクとはとても呼べないレベルの知識、情報しか有してなかったが、それでも、こういったビジュアルノベルやADVゲームという形態がもっとも栄えているのがPC用成人向けゲーム、いわゆる『エロゲ』であるということぐらいは知っていた。
 それと、君望kanon、AIRといった『泣きゲー』と呼ばれるジャンルのタイトルもいくつか。
 ただ、まったく興味を惹かれなかったわけではないが、すでに存在を知っていただけあって、今さら泣きゲーというワードに新鮮みを感じなかったのは事実だ。
 しかし、情報を得る足がかりにはなった。
 なんとなく、泣きゲーというキーワードを足がかりにエロゲの情報サイトをあたっていたところ、なかなか興味深いワードに出会ったのだ。

『鬱ゲー』

 言葉どおり、プレイして陰鬱な気分になるエロゲのことである。
 そして、その単語を紹介しているサイトで、鬱ゲームリストの最上位にあったタイトルこそ、

『銀色』

 添えられた、「現時点でのキング・オブ・欝ゲー」という一文が、僕の好奇心をこれでもかと刺激する。
 ひぐらしとの出会いによって回り出した歯車は次第に動力を増していき、ついにはもっと大きな歯車を動かそうとしていた。


 ※そのとき参考にしたのはこのサイトです。
  http://www003.upp.so-net.ne.jp/yshima/


 まさか、まだサイトが生きてるとは思っていませんでした。
 ちなみに、今ではエロゲ情報サイトやレビューサイトを検索すると、ヒットするのは一部の大手を除いてほとんどがブログですけど、2006年当時はまだ手作り感溢れる個人HPが検索の上位に来ていたんですよ。
 僕がエロゲに手を出しはじめたころが、ブログ形式への転換期だったんでしょうね。
 もう一度見たいと思っても、消えちゃったのか検索の仕方が悪いのか、なかなか巡り会えないことが多かったりします。
 HP運営に気合を入れている管理人さんも多くて、気に入った作品のライターさんに突撃インタビューを行ってる人までいましたから。
 そういうユーザーとメーカーの絶妙な距離感が、一時のエロゲ業界の盛り上がりを支えていたんじゃないでしょうか。
 本格的な衰退期に入る前に、ユーザーレベルではまだまだ熱く盛り上がってたエロゲ業界の空気に少しでも触れられたのが、僕にとっての救いだったと思います。