そこに物語があれば

秋田在住、作家志望兼駆け出しエロゲシナリオライターの雑記

創作、短編、新感覚ジュブナイルホラー「悪魔召喚」

 先日、某巨大掲示板に怖い話系のスレッドが立っていたんですよ。まぁ、もう七月というわけでそういう季節なわけです。
 それで、なんとなく眺めていたら、あるサイトのURLが貼られていまして、そのサイト自体はよくある恐怖体験を語りましょう系のサイトだったんですが、実は僕、そのサイトに昔、作品を投稿したことがあったんですよね。
 それで、懐かしくて僕の作品を検索してみたらまだいくつか残ってたんです。
 そういうわけで、夏ですし、メインの創作の息抜きがてら、今回はその作品に手直しを加えて掲載してみることにした次第です。
 ちなみにサイト内での評価は、わかってくれる人とわかってくれなかった人とではっきり分かれました。
 まぁ、真面目に怖い話を求めてる人からしたら、ふざけんな的な作品ではあります、はい。
 あと、文章が語り口調はこの手のジャンルの短編ではスタンダードですね。

『悪魔召喚』


 こっくりさんってありますよね。ほら、狐の霊だかなんだかを呼び出すやつ。
 あれをやっていて、霊が取り憑いて大変なことになった。
 その手のハナシって、そういう系のサイトなんかを覗いてみると珍しくないどころか意外と多いんですね。
 実はですね、ワタシも似たような体験談があるんですよ。そのぉ……私が遭遇したのはこっくりさんでは無くて……なんと、悪魔なんです!
 信じられないかも知れませんが、悪魔が私の兄に取り憑いたのですよ!
 あの日のことは今でも忘れられません。
 そう、あれはワタシがまだ小学生で兄が十四歳のころだったでしょうか。リビングでワタシがマンガを読んでいると、兄がなにやら大きな紙を持ってきたんです。
 なんだかイヤな予感がするなぁ、と思っていたら、
「悪魔召喚の儀を行うから付き合わないか?」
 なんて言うじゃないですか。
 ええ、もちろん断りましたよ。だってオカルトとか苦手ですもん。だいいち悪魔なんて絶対にヤバイに決まってます!
 でも結局、兄の「大丈夫、大丈夫」というノンキな言葉と少しばかりの好奇心に負けてしまったのですよトホホ……。それでまぁ、儀式につき合うことになったんです。ああ、愚かなワタシ。
 そういうわけでまずは準備をしないといけないらしくって、兄が押し入れから持ってきた真っ黒なカーテンで窓を覆いました。すると、部屋のなかは昼間とは思えないほどまっ暗です。
 次に兄は部屋の四隅に置いた蝋燭に火をつけると、持ってきた大きな紙を床に広げました。そこに現れたのは血のような赤いインクで描かかれた魔法陣。
 この時点ですでに私は、後悔しはじめていました。あきらかに部屋のなかの雰囲気が異様な気配を帯びはじめていたんです。
 そして兄が呪文を口にしました。
 普段の兄からは想像もつかない、なんとなく意味無理やり出してるように見えなくもない低い声。
 それはワタシなんかの想像がおよばない向こう側から、こちら側へ悪魔を召喚するための忌まわしい言葉。
「魂に愛などない。彼我の溝は絶望なれば、絶死をもって告げるまで。されば6足6節6羽の眷属、海の砂より多く天の星すら暴食する悪なる虫ども。汝が王たる我が呼びかけに応じ此処に集えそして全ての血と虐の許に、神の名までも我が思いのままとならん。喰らい、貪り、埋め尽くせ。来たれ蠅の王!」
 詠唱の終わったその瞬間、兄は喉の奥から絞りだすような叫びをあげ、手で顔を覆ったままその場に跪きました。
 悪魔が……、悪魔が兄に取り憑いたのです!
 私は呆気に取られて声を発することも出来ませんでした。
 そして兄は……、いえ、違いますね。
 悪魔は………と言った方が良いでしょう。
 悪魔はに立ち上がると、驚きのあまり床にへたり込んだワタシを見下ろし低い声で喋りはじめました。
「ククク……この私を呼び出せるほどの執行者がまだこの罪深き大地に存在していたとは……僥倖、真に僥倖ぞ!」
 これは、ただの悪魔ではないなと直感したワタシは震えながらも必死に声をあげました。
「お、お前は誰だ!」
 悪魔はナルシストっぽい笑みを浮かべると、それっぽい仕草で礼をし言いました。
「我は這う蟲の王。この罪深き大地に終焉の鐘をならす為に現れた。ククク……ヒトの子よ、嘆き悲しむがいい、鉄槌の刻はもう間も無くだ」
「鉄槌の刻?」
 ワタシはワケがわからず聞き返しました。
「そう、それは神々が作り上げしこの罪深き大地が終末を迎える日。そして、その滅びの鐘を鳴らすのが我の役目」
 な、なんと、悪魔は世界を滅ぼすと言うのです! これはえらいこっちゃです。ワタシは絶望のあまり目の前が真っ暗になりかけました。ガイバーもバスタードもまだ完結していのに世界が終わるなんて……。
 すると、その時でした。
「グッ……そうは……させるかよッ!」
 それは悪魔ではなく兄の声でした。
「ほう……流石はこれだけの力を持つ執行者だ。なかなかにしぶとい」
「ざけんなッ……人の体を使って……なに勝手ほざいてやがる!」
 一見ひとり芝居に見えなくもありませんでしたが、どうやら兄の体の中で悪魔と兄がせめぎ合っているみたいです。
 そのときのワタシは、ただただオロオロするばかりでした。ワタシは悪魔の前に無力だったんです。
 せめて何かしなければと思いワタシは念じました。
(ワタシの魂。たった一度でいい……、戦える翼を。羽ばたける力を。ワタシに翼をあたえてくれ!)
 すると、そのときです。インターホンが鳴って玄関の方から声がしました。
「〇〇(兄の名前)〜、いるか〜」
 それは兄の友人のA君の声でした。
 そうだ! きっと、A君なら力を貸してくれる。そう思い、助けを呼びに玄関へ向かおうしたワタシを悪魔が呼び止めました。
「待て……動くな……動けばマジで殺す…」
 それは、これまでで一番殺気のこもった声。悪魔の恐ろしい眼に射抜かれてしまったワタシは金縛りにあったように身動きがとれませんでした。
 時間にすれば数秒だったのかもしれませんが、ワタシにしてみれば永遠にも等しい時間のようにも感じられましたね。
 そうしてお互いに動けずにいると、突然悪魔が顔を手で覆って苦しみだしたんです。
 私は何が起こったのわからず混乱していると、突然兄が、
「ハッ! 俺は何をしていたんだ。ん、あれはAの声、マズいAがこの魔法陣を見てしまえばAにまで悪魔の手が及んでしまうそうだ早くこれを片付けるぞ手をかしてくれ」 と、まくし立てるように言い、テキパキと模造紙やら蝋燭やらを片付けてしまいました。
 それから、その後、兄は普段通りに過ごしてしています。でも、ワタシは本当に兄のなかから悪魔が去ったのか今でも信じられません。
 現に兄は、このあいだも姿見の前に立ち、おかしなポーズを取りながら、
「審判の日は近い……」
 と呟いていました。
 これはあの日、悪魔が言った鉄槌の刻と同一の何かだと私は睨んでいます。
 それに、兄が何やらあやしげな呪文のようなものをノートに書き綴っているところや、苦しげに包帯を巻いた左手を押さえているところも目撃したことがあります。
 ひょっとしたら、まだ、兄のなかに悪魔が潜んでいるのでは……、と思うと私は不安でしょうがありません。
 そういえば、そもそも兄はなんの目的で悪魔を召喚したんでしょうね。