そこに物語があれば

秋田在住、作家志望兼駆け出しエロゲシナリオライターの雑記

連載コラム、雑記、思い出話「ぼくと、エロゲ 第15話〜人と妖と人妖の、百鬼夜行にいざ参らん・2008冬〜」

 僕は子供のころ、SaGaというゲームボーイのRPGが大好きでした。(特に2)
 この作品には他のRPGと比べて一風変わったところがあって、そこが大のお気に入りだったんです。
 

 世界観の大ざっぱさとでも云えばいいのでしょうか。
 ロングソードやバトルアックスといったRPG定番のファンタジー装備があり、ファイヤやブリザド、サンダーといったスクウェアおなじみの魔法がある。
 これで充分に世界観のバランスはとれているのに、このSaGaというシリーズには、あえてそれを崩してしまうアイテムが当たり前のように用意されていました。

デリンジャー
サイコガン
かそくそうち
レオパルド2
かくばくだん

 これ、全部SaGaに登場するアイテムです。
 剣、魔法に混じって銃や兵器類があるんですぜ。
 この違和感バリバリな世界観がね、今に至る僕の嗜好に影響を与えてしまったのは間違いありません。
 単に銃や兵器に魅力を感じたのではなく、剣や魔法に混じって存在していたからこそ、そのアンバランスさに惹きつけられたんですよ
 こういうごちゃ混ぜなのって最高にカオスでクールじゃないですか。
 具とスープでバランスよく成り立ってるところに、謎の化学調味料を無理やりぶち込む感覚。
 で、今回のコラムに登場する作品『あやかしびと』も、僕のそういった琴線に触れまくった作品です。
 
http://www.youtube.com/watch?v=FMleYGQcNQE

 この作品も具とスープでバランスがとれているところに化学調味料を混ぜ混ぜしちゃってるんですよ。
 あやかしびとは、妖怪を題材にした異能バトルものでして、大妖怪・九尾の狐の末裔であるメインヒロインと、幼なじみである彼女を守るため行動を共にする主人公、そして、過去の因縁から彼らの命をつけ狙う悪の大妖怪……という非常にシンプルでわかりやすい対立構造がストーリの基本骨格になっています。
 

 登場人物の八割以上が妖怪の血を引いており、何らかの特殊能力やら特殊体質を持ち合わせていて、これを用いてバトルを繰り広げるわけですね。
 そんな、一見バランスのとれた作品をグチャグチャにかき混ぜちゃう一番のトリックスターは何なのかというと、↓の画像に表示した人相の悪いおっさんなんですよ。

 このキャラクターは、かつて主人公に武術を教えた師匠なんですが、この濃いおっさん、メインストーリーであるところの妖怪同士の対立なんかどこ吹く風で、まったく別の物語軸で行動してまして……。
 

 もう個性が強すぎて、この九鬼先生というキャラクターがいないとあやかしびとじゃないってぐらいの人気キャラではあるんですが、物語全体のバランスを考えた場合には異物以外の何者でもない。
 というか、作品の基本線が妖怪の能力を生かした異能バトルなのに、このおっさんだけ生身の人間で、我流拳法と鋼の肉体をメインウェポンに殴る蹴る突くときどき傘で暴れまわるんですから、そりゃあ異様な存在感ありますってば。
 それも、ただ存在感があるだけななく、トリックスターのくせしてストーリーにも強引に関わってきますし。
 それと、エロゲですからヒロインの人数分だけストーリー分岐があるんですが、どのルートで展開されるストーリーも、緩急を度外視したとしか思えない全力投球でして、それぞれ独自性を持たせて、なおかつ精一杯盛り上げているもんだから全体のまとまりとして見たらかなり歪。この辺もカオスさを感じさせる要因の一つになってます。
 悪の大妖怪との因縁とかそっちのけで、ロシアの特殊部隊とガチンコやっちゃったりするのなんて序の口です。
 

 だけど、このカオスさがまたとっても愉快で面白いの。
 ジャンクな味わいなんだけど、面白そうなことは全部やってやろうという思い切りの良さが気持ちいい。
 あやかしびと以前にプレイしてきた燃えゲーと呼ばれるジャンルのエロゲの中にも、世界観のバランスをちょっとおかしくしてるキャラなり展開なりはありました。

 徒手空拳で魔術師をボコる執事だとか、

 
 化け猫に食われると思いきや、単分子ワイヤーで切り刻んじゃう企業勤めのおっさんとか。

 でも、基本そういうのは前に出しすぎると話や設定がおかしくなっちゃうので、どこかで一線を引くのが普通なんです。
 しかし、そこをあやしびとは一線を引かずに、どんどん前に押し出してくる。だから、当然のようにカオスにはなるんだけど、強烈な個性にもなっている。
 もし、バランスを考えて一線を引いちゃっているような作品だったら、僕はこの『あやしびと』を、そこまで好きになってはいなかったでしょう。


※あやしびとのライターを務めた東出祐一郎さんは、この後にバレットバトラーズという作品をリリースするんですが、そちらは角が削れて設定やストーリーのまとまりがずいぶん良くなった反面、あやかしびとに感じた滾るような熱量はなくなっていました。
 その次のエヴォリミットでは、ごちゃ混ぜ感だけは戻ってきたものの、どこか荒削りな部分ばかりが目立って、悪い意味でまとまりを欠いていたように思えます。
 それ以後の東出さんの作品を僕は未プレイなので、とやかくは云えないのですが、あやしびとの続編が出ると聞き、あのころの勢いが戻ってくればいいなとは願ってますね。


 ……と、ここまで書いて、もう一つ思い当たったことがあった。
 この作品、ほとんどすべてと云っていいぐらいに登場人物たちが個性的でキャラも立ってるんです。
 


 とにかく印象に残るし、ごく一部の憎まれ役を除いては、敵対する側にすら妙な親近感が湧いたりもする。
 客観的に見てくと、キャラ造形や配置が特別巧みというわけではないんですけれど、主役級以外のキャラにもばんばんスポットライトが当たるもんだから、自然と彼らの物語も気になってしまうんですよ。
 自分で創作をやるようになった今だからこそわかるんですが、先の見通せない連載漫画ならともかく、エロゲや映画みたく一本できちっとオチがついて完結する媒体だと、そういうサブキャラにもばんばんスポットライトを当てるような構成って、普通は悪手なんです。
 一時的とはいえ、ストーリーの中心が主人公たちから離れてしまうので、どうしてもストーリーが散漫になってしまいがちだったりしてね。
 だけど、結果としてあやかしびとは、その散漫さを魅力に転嫁しているんだから大したもんです。
 主人公が誰かなのかはっきりしていて、ストーリーの軸も序盤から明確なのに、不思議と群像劇っぽかったりするのも、僕がこの作品にカオスさを感じた所以でしょう。
 たぶん、東出さんは、あやかしびとの登場キャラクター全員が好きなんじゃないですかね。そうじゃなかったら、ああまでして脇役にもにいちいちスポットライトを当てて見せ場を作らないと思いますから。